望む
懐かしむと同じ夢主です。











まるでスーパーの従業員のように忙しなくがたがたと品物を動かし、棚から棚を行ったりきたりする南の島のみんなの執事。

汗一つかかずに休憩なしで動き続けられるのはさすがプロとでも言うべきか。

そうしてあらかじめ用意しておいたダンボール箱の中に機械的にスーパーの飲料コーナーから水を移動させていると、不意に横から彼のではない腕が伸びてきて取ろうと思っていたペットボトルはさらわれていった。

「これ、この中に入れればいいの?一人じゃ大変でしょ、手伝おっか?」

いきなりのことに驚いて振り返ればそこには小泉が佇んでいる。

ミョウジは彼女の質問に答えることなく慌てたように口を開いた。

「小泉様!手伝うだなんてそんな…!そんなことは俺がやりますから!」

「へぇ、ミョウジって素だと自分のこと“俺”って言うんだね。ちょっと意外」

「あっ…も、申し訳ありません!つい…」

申し訳なさそうな、困り果てたような顔で頬を羞恥でほんのりと赤く染める彼の姿は、普段大人びた姿ばかり見ているせいかひどく新鮮に見えた。

いや、この姿が彼の本当なのかもしれない。
普段涼やかな表情ばかりを浮かべている、そんな彼が素を見せる瞬間は何ともおかしくて笑ってしまう。

「どうせ他の男子達に言われてやってることなんでしょ。無理しなくていいって」

本当は男子勢だけに頼まれ事をされたのではなく、そこには西園寺からグミの調達や終里から特訓後のタオルなども依頼として含まれてはいるのだがわざわざそんなことを訂正したりはしない。

それよりも今彼の思考力はどうやって小泉を諦めさせるかに費やされていた。

「本当に私は一人で平気ですから。小泉様はどうぞビーチの方に行ってらしてください。皆さんもお待ちになっているでしょうし…」

元々今日は全員で海水浴をするという予定で。
何やら興奮していた左右田にかき氷機や料理用の鉄板を頼まれたからこそ自分はこうして荷物を運んでいるのだ。

海水浴参加者の為の擬似的な海の家制作なのにその参加者に手伝わせてしまうのは心苦しいことこの上ない。

だが涼やかな態度であれやこれやと言葉を並べるミョウジを見ていた小泉は、そんな様子にやがて呆れたように一つため息をついた。

「あのさ、あんたって何でそんななの?別に頼りないってわけじゃないんだけど無欲すぎるっていうか自己主張しなさすぎっていうか…」

いきなりの説教タイムに彼は弾かれたように背筋を伸ばして聞き入る。

自分に至らない点があったのだと思うと自然と体も強張っていった。

「どうせビーチ行っても焼きそば焼いたりかき氷作ったりって一人で全部やろうと思ってるんでしょ」

「それが私の執事としての仕事ですから」

「何でもかんでも一人でやらなくていいの!いくら執事だからってそれは同じ」

わけがわからなくなってきたのか、ミョウジは困ったように瞳を揺らす。その姿は怒られて耳を弱々しく垂れ下げる子犬に酷似していた。

まるでいじめているような錯覚に陥るが彼にはこれぐらい言ってやらなければ駄目なのだ。意外と頑固な性格だからそれは尚更。

最後まで言い終える頃には目の前の彼はどことなく落ち込んでいて。
それでも綺麗な笑みを浮かべて口を開く。

「私の望みはこうやって皆様のお役に立つこと、ただそれだけなんです」

無欲ではない。自己主張をしていないのでもない。全ては己の行動に凝縮させてきたはずだった。
他人の迷惑になるかもしれないことだとしても。

それは執事という名の役割が持つ壁を越えてまで。

こうして考えてみると、独りよがりな考え方に笑ってしまう。無欲だなんて、とんだお笑い話だ。

「私は、皆様に…小泉様に笑っていただきたいのです」

「それは出過ぎた望みなのでしょうか」なんて言いながら憂うような瞳を向けてくるミョウジ。

思わず息がつまりそうになって慌てて小泉は目を逸らす。

この人は本当に優しい人、優しい執事だ。

自己犠牲を伴うとわかっていても決めた主人の満足のためにと、そればかり。
どこか似ているかもしれない、あの希望の狂信者に。

いや、違うか。同じにしてはいけない。あんな奴と彼とを同列にするなど彼へ対する最大級の冒涜だ。

それでもそのちっぽけで壮大な望みは

小泉にとっては

限りなく残酷な響きを含んでいた。


(私はそんな望みは望んでない)


bkm
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