揺れていた。
何も知らずに安らかに眠る彼女に触れるべきか、触れないべきか。
ボクが知った真実はあまりにも重すぎてそれが真実だなんてにわかには信じられなかった。
だってさ、信じられる?“絶望の残党”?ボクが?希望の象徴であるはずのみんなが裏切り者を除いてとっくに絶望に堕ちていただって?おかしすぎて笑いすらもう出てきやしないよ。本当に…笑っちゃうよね。
それじゃあ絶望を…ボクにとって一番輝いていた希望であるはずのナマエが絶望…?
わかってる。
本当はそれを…それだけが一番信じられなかった、いや、信じたくなかったんだ。
全てを事実として受け止めてしまったら、ボクは絶望を愛していたことになってしまうから。
でもモノクマの言っていたことも、この資料も、嘘なんてこれっぽっちもないんだろう。
それじゃあこの感情はもうおしまいだね。
絶望を好きな気持ちなんてボクはいらない。全部捨てて、ボクはボクのするべきことをしよう。裏切り者も何としてでもあぶり出して…そして…
「……簡単にそうできたら…どれだけよかったんだろう」
本当にね。
そうできたなら…どんなに…
「……な、ぎ…と…?」
覚醒しきっていない瞳をこちらへと向けるナマエ。
起こしてしまった罪悪感なんてものはない。モノクマに頼んで勝手にコテージの鍵を開けてもらった時から罪の意識なんてものはどこかに消えていた。
「…ナマエ、ボクは…」
裏切り者がナマエであったらと、そう思わずにはいられない。
でも残念ながらボクの幸運はこういう時にはまるで機能しないから願うだけムダなこと。
そもそももう彼女のことなんてどうでもいいはずだ。
絶望を愛する感情なんて吐き気がするだけなんだから。
“ナマエが裏切り者だったら”“実はナマエだけが堕ちていないのではないか”なんて絶望を擁護しているようなものじゃないか。
「……凪人、最近おかしい。なにか、悩んでるならいって、ほしい…」
夢の中の出来事だとでも思っているんだろうか、朦朧とする意識で言葉を紡ぐナマエ。
「わたし…あなたが好き、だから」
ソッと伸ばされた小さな手はボクの手に優しく触れて、ナマエはまた深い眠りに落ちていった。
触れたくはなかった。でも触れたかった。
そんな葛藤と躊躇いは一瞬で吹き飛ばされたよ。
「…ナマエ…ボクは…!!」
目を背けようと、気持ちをごまかそうとしたところで無意味だってことくらい、わかっていたはずなのに。
わかってた。
ボクが好きなのは、ボクが愛していたのは
ナマエ自身だったんだ。
ナマエという存在そのものに惹かれてナマエがボクの希望になったんだ。
触れたくなかったのは、躊躇っていたのは気づきたくなかったからなんだ。
その事実を目の前に突きつけられることを。
「……ボクも、好きだよ」
眠る彼女に小さく口付けを落としてすぐに離れる。
そうしてもう一度ナマエの手を握ろうとしたけれど
やっぱり躊躇いは
ボクの背中を押してはくれなかった。
(愛している、だからこそ)