遠のいていた意識を再び現実へと引き戻したのは聞き慣れたあの声と、チカチカと明滅する真っ暗な視界だった。
「おーい、ナマエ」
「あれ…?達海さん…?」
ぼんやりとする頭で斜め前にいる達海とテレビの中で展開されていく試合とを交互に見る。
テレビの試合時間はちょうど後半の35分で、意識を失う前の記憶が正しければ最後に見た時間は後半の15分頃だったはず。
ゆっくりと覚醒していく中でナマエはやっと慌て出す。
自分から見たいと言って一緒にいさせてもらったのに寝るとは何たることだ。しかも20分近く。
「眠い?」
「い、いえっ!もう大丈夫です!…多分」
今の今まで寝ていたくせに今更そんな言い訳が通用するわけがないと、心のどこかではわかっていたのかもしれない。
だからこそ言葉の最後はやけに消え入りそうなほど小さくなってしまって、ナマエは困ったように眉を下げた。
すると達海はテレビを消してゆっくりと立ち上がる。
既に試合は終わっていたし、消したところで何も問題はないのだが、自然と彼女は名残惜しそうに「あ」と声を発していた。
「じゃあベッド半分使って一緒に寝る?手出さない保証はないけど」
まるで日常会話をするかのような達海に、一瞬わけがわからず呆気にとられる。
数秒固まっている間にも達海はさっさとベッドへと入っていって寝る準備を整えていった。
一連の流れはあまりにもあっけなく、ミョウジが全て理解した時には、その頬はこれでもかというほど赤く色づいていた。
「あの…達海さんっ」
そうして気づけば彼の名を呼んでいて。気だるげに返ってくる返事を全て聞かない内に彼女は真っ赤なままで問を口にしていた。
「こ…これで相手が有里さんでも…一緒に寝ようって言いますか?」
「いや、言わない」
「手…出したいって……有里さんでも思いますか?」
「そんなことナマエにしか思わないと思うけど」
さらりさらりと返される答えは染み込むようにナマエの胸の内を満たしていく。
やがて柔和な笑みを湛えて彼のベッドへと入った瞬間から穏やかな夜は
始まりの鐘を鳴らしていった。
(これが自惚れずにいられましょうか)