「なぁなぁ、ぶっちゃけ誰が一番気になんだよ?」
波音穏やかな砂浜で貝殻や砂などを採集をしている最中に発せられた左右田の一言に日向はあからさまに怪訝な表情を作った。
左右田がこの手の話題には非常に敏感だということは知っているが今目の前でにやつく彼はいつもと感じが違っている。
「何だよ、急に」
「だーかーら、この後みんなで海水浴だろ?誰の水着姿が一番気になってんだって話!ちなみにオレはソニアさんな!」
「別にお前には聞いてないだろ…でもそうだな…」
脳裏に浮かぶ一人の女。
別に変な意味ではないがミョウジの水着姿は見てみたい。
想像するだけでほんのり頬が熱を持ってくる気がして慌てて思考を中断した。このままではひらめきアナグラムがとんでも単語を完成させてしまう。
「あ!今誰か想像しただろ!!おい教えろって、オレだけ教えるなんてずりーだろ!」
「お前は聞いてないのに勝手に言ったんだろ!」
必死に隠し通そうとしたがなかなか引き下がらないのがこの左右田という男で。
もう採集そっちのけで二人は口論を展開していった。きっとモニター前のウサミは今頃喧嘩かと思ってオロオロしていることだろう。
最終的に砂浜で男二人追いかけっこという何とも珍妙な構図が出来上がった時、柔らかな声が二人へとかけられた。
「あれ?もう日向クンと左右田クン先に遊んでたんだ」
そこにはウサミを抱きかかえたミョウジの姿。
細身の彼女によく似合うビキニを着て、彼女は不思議そうに首を傾げている。
「あれミョウジ?もう来たのか!しかもミョウジはビキニだったか」
「よくわからなかったから真昼ちゃんに選んでもらったんだ」
「つか何でウサミ持ってんだよ」
「だってウサミちゃんだけ仲間外れなんて可哀想だったから…」
そう言われたウサミは「あちしはいい生徒をもてて幸せでちゅ」なんて言いながらヨヨヨと泣いている。
柔和な笑みを浮かべながら左右田と話していたミョウジだったが、そこでずっと黙っている日向に気づいて今度は彼に対して口を開いた。
「日向クン?どうしたの?」
心なしか顔も赤い気がする。何だか心配になって彼に近づけば同じ分だけ日向は後後ずさった。
「い、いや!何でもないから!」
「?大丈夫なら、いいんだけど…」
まだ心配そうにはしていたけれどミョウジはそれ以上に何も聞かずに海の方へと走っていった。
残された日向は手で顔を覆う。
普段は隠されている白い肌を露わにする水着。胸の前で抱きかかえるぬいぐるみ、というかウサミ。下から覗くようなあの視線。
全てが心臓の鼓動を大きくするには十分すぎた。体が暑いのはきっとこの太陽のせいだけではないだろう。
「……反則だろ、それは」
ぽつり呟かれたその言葉は
小さな小さな波音にさえかき消されて
無限に広がる青の中に溶けていった。
(ときめき指数は無限大)