「おかえりなさい、リヴァイ」
頭上から降ってくる突拍子もない言葉にリヴァイは眉間に皺を寄せて、じろりとナマエを見る。
机に置いてあるランプだけが部屋の唯一の明かりで、彼女はぼんやりとしか見えないはずなのに、はっきりと微笑む彼女が彼の視界を支配する。
「今日はまだ言っていなかったでしょう?だから、おかえりなさい」
膝に乗せた彼の頭の重みはひどく心地よくて。
そのまま頬でも撫でてやろうかなんて思ったけれど、それは彼が伸ばした無骨な手によって中断された。
武人そのものでそれ以外の道を辿った痕跡のない手。そのくせ触れる時は優しさと愛しさが込められている。
ゆっくりと目を閉じて意識を集中させれば生温かな風が確かに肌を貫いていった。
今日も生きて帰ってきてくれた。
リヴァイの生を実感する度に涙が溢れそうになる。
「今日は何か変わったことはあったか?」
「なかった。憲兵団は今日も平和そのもの。何もなさすぎて隊士が昼寝しちゃうくらい」
皮肉を込めてくすくすと笑いながら放たれた言葉にリヴァイは小さく舌打ちをしているようだった。
「平和だからこそ、私はあなたを待っていられる」
「…あぁ」
危険のない憲兵だからこそ、安心してリヴァイの帰りを待ち続けていられるのだ。
共に戦うのではない。背中を預けあうのでもない。
帰ってきた壁の内側で帰りを待っていてくれる人がいる。
それはきっと同じ隊に所属して共に戦うよりもずっと嬉しいこと。少なくとも自分だけはそれを信じて疑わなかった。
だって遠征終わりの憔悴しきった顔ではきっとこんな風に彼の枕になってあげることはできないから。
「平和ボケしたお前の面を見た時が…一番生きて帰ってきたことを実感させられる」
日溜まりを追い求めるように、夜の中で輝く太陽に触れる。
待っていてくれる人がいるということはどんなに幸福なことだろう。
そんな人から紡がれる己の名を聞いた時はどんなに。
「また外に行く時は、その時は…」
「えぇ、待つわ。待つから…だから今だけは、ずっと一緒にいて」
(待つだけの愛情は、間違いですか?)
bkm