くるくると無駄のない動きで腕に巻かれていく包帯を見て、彼は感嘆の声をもらす。
「すっげー…マジすげーよ罪木!!魔法みてーだ!オレ今すっげー興奮してる!!」
「はわわ…け、怪我してるのに暴れちゃダメですよぉ…!」
「あ、そっかそっか!あんせーに、だっけ?うん、了解!」
立ち上がりかけたが大人しくイスに座り直してミョウジは屈託なく笑った。
南の島の太陽にも負けないほど眩しい快活なその笑みは、彼の性格をよく表していると言っても過言ではないだろう。
「でもホントにすげーよ。オレ包帯なんか巻けねーもん!」
「…これぐらいしか私にはできませんから」
何か悪いことを言ってしまったのかと思ってしまうほど罪木は目に涙を浮かべて体を小刻みに震わせた。
ミョウジはすっかり落ち込んだ様子の彼女を見て一瞬焦りかけたけれど、次にはまたあの笑みを浮かべる。
「オレだってサッカーくらいしかできないよ。そのサッカーでだってすーぐケガして罪木のとこに直行してるし」
調子に乗って大技を決めようとして痛い目を見るというのは日常茶飯事だ。
しかも単純だから怪我さえ治れば失敗したことなどすぐに忘れて同じことを繰り返す。
そろそろ彼女にだって匙を投げられてもいいはずなのに。
怪我をしても治してくれる人というのはミョウジにとってみれば自分自身なんかよりもよっぽど役に立つ稀有な存在だった。
「で…でもぉ…私すぐドジ踏むし…転ぶし…」
「あぁ!あの独創的な転び方はオモシロいよなー!特にこの前の…」
「ふゆぅ…思い出さないでくださいぃぃ…!!」
「なんでなんで?オレああいうの大好きなのに」
大好きという言葉が意外だったのか、罪木はほんの少し目を丸くしてミョウジを見つめ返した。
確かに転ぶ度に皆呆れるか馬鹿にするかするというのにいつも彼だけは興味津々といった風に笑っているのを思い出される。
それは馬鹿にした笑いというのとはまた別の純粋な笑顔。
「それもさ、罪木にしか出来ないじゃん!オレだってやってみたいのにさー」
この男の瞳に映る己の姿は一体どんなものなのだろう。
今まで向けられていた蔑むような視線ではない、虐げられるような視線でもない綺麗な瞳の先に映る罪木蜜柑とは一体どんな。
「…だったら…ミョウジさんは…私のこと、許してくれますか…?」
途端にキョトンとするミョウジ。
質問そのものの意味がよくわかってはいないようで、どう答えるか迷っているようだった。
やがて考えても時間の無駄だと判断したのか、ミョウジは一度頭をかきむしって吹っ切れたように笑む。
「許すことがねーじゃん。オレ罪木のこと大好きだし気に入ってるし、許せないほど怒ってることなんてねーよ?」
「ミョウジさん…」
「あ、もしかしてなんか失敗でもした?だから落ち込んでんの?なんだよー、だったら先に言えって!」
「え…えと、あのぉ…」
勝手に自己完結したのか、ミョウジはうーんと唸って、それから勢い良く立ち上がったかと思うと、男性らしい大きな手を罪木の方へと差し出した。
「よし!じゃあ今からサッカーしに行こーぜ!オレ馬鹿だしウマい慰めの言葉とかわかんないからさ、これがオレ流の慰め方法ってことで」
イタズラっぽく笑いながらもう片方の手でVサインを作る。
罪木ももうその頃には生まれかけていた卑屈で暗い感情はどこかにいっていて、おどおどしながらも彼の手をとった。
触れたその手は温かくて
彼女の顔には心からの
自然な笑みが浮かんでいた。
(不器用で最高な慰めをありがとう)