「何を見ているんだい?」
後ろから突然聞こえてきた声に思わずソファーに座ったまま体を大きく跳ねさせる。
今の今までテレビに集中していただけに反応は大げさなくらいになってしまい、後ろに立つ彼はおかしそうにくすくすと笑っていた。
「びっくりした…もう…笑いすぎですよ、名取さん!」
「はは、ごめんごめん。意外な反応だったからね」
頬を膨らませて抗議する彼女を見つめながら名取の視線は目の前の大きな液晶テレビへと向けられた。
そこにはついこの間DVD化された自身の映画がちょうどエンディングのあたりで中断されている。
恋愛物で少しばかり大人の雰囲気が味わえる作品だからか、意識を集中させれば部屋の空気も不思議と甘ったるく感じられた。
「劇場で見るのももちろん良かったけど、こうしてテレビで見るのもやっぱり良いですね」
今までのシーンを思い出してか、うっすらと頬を赤く染めるナマエの顔を見ると、名取の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
映画の女優のような大人な女性ではないけれど、かわいらしくてたまらなく愛おしい。
「でもちょっとだけ妬けちゃいますね。ふふ、私って嫉妬深いんでしょうか」
「そうだとしたら少し嬉しいね」
苦笑するように笑うナマエの頭に優しく手を乗せれば今度は心底嬉しそうに緩んだ表情を作る。
簡単に変わる表情。
だからこそ目を離せない。
嫉妬してくれた顔すらも少しかわいらしいと思うのはただのノロケになるのだろうか。
「嬉しいんですか?」
「ああ、とても。それだけナマエから想ってもらっているということだからね」
「な…なんか急に恥ずかしくなってきました…!」
のぼってくる熱を冷ますように手で顔を懸命に扇ぐナマエ。
逃がしてしまったほの甘い熱を少しもったいないなんて思っていたら何か思いついたのか、屈むように手でジェスチャーしながらナマエがイタズラな笑みを浮かべていた。
「ナマエ?」
何を言うでもなく、やけに艶めかしい雰囲気をまとわりつかせて、すっと耳元へと口を寄せる。
「好きです、周一さん」
驚く暇を与えることもなく離れていく彼女は満足そうで。
いつも驚かしたり恥ずかしがらせているのはこちらの方だったから、これは一種の仕返しだったのだろうか。
映画のワンシーンを切り取ったかのような展開に思わず口元が緩んでしまいそうになったけれど、やられたままなのはどうも気に食わない。
再度テレビへと顔を向けた彼女を逃がさないように後ろから首に腕を回してナマエがしたようにそっと耳元に口を寄せていった。
「私は愛しているよ、ナマエ」
あらん限りの愛情を込めて。
それでも半分ほどのちっぽけな想いしか伝えられてはいないのだろうけど。
囁きはやがて彼女の顔をこれ以上ないほど
赤く染め上げていったのだった。
(まだまだ主導権は握らせない)