南国の海の潮風心地よいビーチでただ一人を除いて採集に励む男女。
一人というのは左右田のことで、先ほどから彼は一生懸命に動くソニアにばかり視線を奪われている。
「ソニアさん…採集なんて庶民的なことしててもお美しい…!」
「左右田、もうそれはいいからいい加減真面目にやれよ」
困ったような何ともいえない表情を貼り付けながら日向は今日何度目かもわからない台詞を彼へと投げた。
彼は日向の言葉を受けて反省しているのかいないのかわからない曖昧な返事をしてからソニアの手伝いをするべく彼女の方へと走っていった。
「まったくあいつは…って、どうしたミョウジ?」
ふと隣のミョウジへと目を向ければ彼女は眉間に皺を寄せながら遠くの二人を眺めている。
ミョウジも左右田に怒っていたのかと思ったけれど、彼女が怒っている映像など今まで見たことがなかったと、その考えを早々に打ち払った。
不思議そうに問いかければ、彼女はすぐに我に返って申し訳なさそうな表情を作る。
「あ、ごめん何でもないの!…ただ、左右田クンってやっぱりソニアちゃんのこと好きなのかなーって考えたら気分沈んじゃったっていうか…」
「ミョウジ…お前左右田のこと…」
「ふふ、誰にも言わないでね?恥ずかしいからさ」
人差し指を口元に持っていって笑うミョウジは綺麗だったけれど、どこか虚しく見えて。
諦めにも似た感情も同時に流れ込んできてそれが何故か日向には痛々しく感じられた。
だからなのかもしれない。気づけばミョウジの意識を二人から逸らすように少し大きめの声で言葉を紡いでいた。
「左右田のは憧れみたいなものだろ」
そう言ってはみてもミョウジはやはり複雑そうな顔で微笑むばかり。
その顔を見るだけでも彼女がこの共同生活中どれだけ悩んできたのか伺い知れた。
「じゃああいつの喜ぶプレゼントとかあげてみたらどうだ?」
「ソニアちゃんをあげるの?」
「そういうことじゃない!」
「ならペンチにネジとか…?それってプレゼントにならない気がするんだけど」
確かにその通りだが相手があの左右田なら存外悪い贈り物ではない気がしなくもない。
頭を回転させながら悩むミョウジはその後もあれこれと案を上げていったがどれもしっくりこないのか、結局悩むだけ無駄という結果になった。
これだけ自分のことについて考えてもらえるのだ、左右田は幸せ者だと言ってもいいだろう。
もっとも、本人があの状態では想ってもらったところでもったいないだけなのかもしれないのだけれど。
そうして日向が小さくため息をついた時、今までソニアの所へいた左右田がミョウジの方へと走ってくる。
「おいミョウジ!こっちとこっちの貝殻だったらどっちをソニアさん喜んでくれると思うよ?」
「え?んー…と、どっちも綺麗だけど、こっちかな」
「おーしこっちだな!じゃ、残った方はお前にやるよ」
「私に…?ありがとう左右田クン!」
「い…いいって礼なんてよ!!じゃあソニアさんにこれ献上してくるわ!」
妙に慌てながら再度ソニアの方へと走り去っていく姿をただ呆然と見つめる日向。
恐らくミョウジは気づいてはいないだろうが今の左右田の態度はもしかしたらもしかするのかもしれない。
やがて日向は足元の砂浜へと視線を下ろして
今度は別の意味でため息をついた。
(きっとお悩み解決はそう遠くない未来の話)