ペットな居候2
「なぁなぁ、ナマエって彼女いんの?」

「いねーよ」

「へぇ、意外だ!じゃあペットとかは?」

「ペットは…………………いる」

「何その間」


今まさにここに奴はいる。つか俺の肩に。
何で友達にはこいつ見えないんだろう…こんなに憎たらしいのに…こんなに口うるさいのに…!!

「じゃあ俺は彼女待ってっから!!明日なー」

お前彼女いるのかよ!!というツッコミは何とか抑えつつ俺は真っ直ぐ家路にはつかずに駅前商店街の方へと歩き出す。

そして悪魔の囁き…いや、小姑の嫌みは今日も俺の耳へと届いた。

「彼が羨ましいのかい?」

「別に」

「……」

「黙るなよ!余計虚しくなるだろうが!」

「だから僕が紹介してあげようかと言ったのに。虚しくなるぐらいなら何故断ったんだい?わけがわからないよ」

「黙れぬいぐるみ!ぬいぐるみから紹介された女がいい女だった場合の俺の気持ちを考えろ!!」

人外生物から女を紹介されるなど屈辱以外の何物でもない。
さすがにこの十数年の短い短い人生の中でまだそんなでっかい屈辱なんか味わってたまるか!!

「つか何でお前こんな時間に俺の傍にいるわけ。この時間は大体幼女のとこに行ってんじゃん」

「幼女じゃない、少女だよ」

何でそこら辺は否定するのか。

こいつの話だと魔女になる前の少女だから魔法少女って呼んでるんだったっけか。
じゃあ幼女だと魔法幼女か…………ダメだわ。アウトだったわ。

「魔法少女の所に行こうと思ったらナマエがいたからね」

「俺はおまけかよ!…魔法少女も大変だよなぁ…俺なら魔女と戦うことよりお前みたいな顔文字生物とつき合っていく方が嫌だわ」

「真実を知る前にそこまで罵ってくるのは逆に君ぐらいなものさ。一人を除いて」

「マジか!もう魔女じゃねよぇよその子達、天使だな!というかその一人に何したんだよキュウべえ、だからセクハラはやめておけとあれほど…」

「君は是が非でも僕を変質者にしたいみたいだね」

「安心しろ。お前は出会った時から既に変質者だった」

「ひどいな、哀れみの瞳を向けないでくれないかい?そういえば君は僕と初めて会った時も殺虫剤片手にそんな目を向けてきていたね」

「異物を見てそうならん奴の方が珍しいだろ」

殺虫剤、しかも対黒いあいつ用の超絶強力なやつ。それで死ななきゃ多分これは宇宙人。そういう感覚であの時はキュウべえと対峙してたっけ。

だって耳から耳みたいなモン生えてんだぜ?図鑑に載ってるどんな気色悪い昆虫よりも戦慄を覚えたね、俺は。

しかも人の部屋に不法侵入して最初の一言が「やぁ」だぜ「やぁ」!!お前は俺の友達か!って思わずつっこんじまったよ。そこからはホラー映画な展開が一転してコメディだよコメディ。

「それより、今日の君は何だか大人しい気がするね。いつもならもっと大きくツッコミを入れるのに」

「当たり前だろうが!今は俺しかお前は見えてねぇんだぞ?端から見たら一人で喋ってるみてぇじゃん、それこそ変質者だわ」

未だかつて一人で喋り一人でツッコミを入れる変質者がいただろうか…さすがに俺がその第一号になりたくはない!

「僕としてはその方がうるさくなくていいけど。ナマエはすぐに声を荒げるからね」

「誰のせいだと思ってんだ!おいそこに直れ害獣、踏みつぶしてやる」

「もう既に首を締めているじゃないか」

どこが首だかわかんねぇくせに口だけは達者だな…くっそ!口すらどこかわかんねぇし…!

ギリギリとキュウべえの首をわりかし本気で締め…いや、ペットの躾程度に締めていると、前方におばさまの井戸端を発見する。

それを見て慌てて手を離す。危ない危ない。ああいう人達に挙動不審な態度なんてとったら次の日には街中に広がる…!彼女らのネットワークを舐めてはいかん。

やがてまたゆっくりと歩き出した俺の肩に座り直したキュウべえは小さく溜め息をついた。

「ふぅ…君が魔法少女になってくれたらいい魔女になれると思うんだけどなぁ」

「お前は俺に性転換をしろっつってんのか、ん?」

「斬新だね!その方法は考えたことがなかったよ」

「待て待て待て!!変な気を起こしてんじゃないよ!それにさぁ、俺は多分魔女にはなれねぇと思うぞ」

「何故だい?」

「だって俺、絶望なんて感じたことねぇもん」

それは別に人生経験が浅いからとかそういうのじゃなくて、また別の話。

「俺は俺自身が一番どうでもいいんだよ」

「それは叶えたい願いもないということかな?」

「そういうこと。俺物欲ないんだわ。よかったなーキュウべえ、欲のない素敵な主人を持って」

「誰がだい?」

「てめっ…!」

居候の身分でこいつは…!ま、なんか心なしかこいつの雰囲気が暗くなったから気分はいい。日頃の仕返しだ。

「でも、それは裏を返せば自分よりも他人の方が大事だということの証明だ」

「何だよ、まだその話題引きずって…確かにそういうことだけど」

「他人の為に願った子もたくさんいる。そして誰もが平均して普通よりも早く魔女化することになったんだ」

一体何が言いたいんだこいつは。

どうひっくり返ったって俺は魔法少女にはなれねぇってのに…魔法少年とかを増設すんのかな?それにしたって年齢的にはもう俺はアウトのはずだぞ。

近所のガキ共にもおっさん呼ばわりされるような年齢だぞ?あ…何か虚しくなってきた。

「僕はもうかなりの時間ナマエを見てきたけど、君はどの部類にも属していない」

「いきなり珍種扱いされたんですけど!!何こいつ!」

「君はどちらかというと世間全てに感心がないんじゃないかい?」

「何だそれ……そう思いたきゃご自由に」

「もしかしたらそんな君だからこそ、僕の姿が見えるのかもしれないね」

「さりげなく同類宣言してんじゃねぇよヨーグルト饅頭」


世間に感心がないっつーか…魔女だとかインキュベーターだとかに興味がねぇんだけどな…

まぁ何かこいつは満足げにしてるみてぇだから

それでいいか。


(ついでにお前の興味もないよ)


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