「うおぉぉぉ!?」
俺は今この家のペット…いや、居候を踏んづけた。
「やべぇ!けっこーダイレクトに踏んだー!!おいキュウべえ?キュウべえ!?死んだのか?死んだのか!?」
ぐったりと動かない動物と分類するにしては明らかに彼らに失礼なぬいぐるみ生物を見下ろして
そして俺は全身全霊でガッツポーズをした。
「よっしゃぁぁぁ!!やっとくたばったかこの性悪生物」
こんなに喜んだのは昔体育祭で自分のクラスが優勝した時以来ではあるまいか。
とりあえず今日は赤飯を炊こう。場合によってはホームパーティを開いたっていい。とにかく歴史が変わるぐらいのおめでたい日だ、今日は。
「まったく、ひどいなぁ君は。毎度そうやって僕が潰される度に喜ぶのはよしてくれないかい?」
くっ…やはりそんなに人生うまくはいかないか。人外生物め…生きてやがったか。
これで何度目だ?もう10過ぎてからは数えてねぇぞ。
「お前がもうちょっと従順で可愛げがあったら俺の尊い涙だっていくらでも流してやらぁ。つか気持ち悪いっ!!毎回毎回その死体処理気持ち悪いっ!!」
何で食べる必要があるんだ…!漫画みたいな口してるくせに…!!味は絶対ヨーグルトの気がする。何故かって?白いからだよ。
「あのさぁ、もっと違う死体処理ねぇの」
「そうやって文句を言う前にまず朝寝ぼけて踏まない努力をしてほしいよ」
「何故上から目線…!?おいムカつくその顔やめろ、そして見るな。顔文字みたいな顔しやがって…お前みたいな奴夏休みの工作みたく五分で作り上げてやるわ」
「それは無理だろう?ナマエの美術成績は2だったじゃないか。よくそれで中学を卒業できたね、立派じゃないか」
「勝手に人の昔懐かし成績表を見るな!!それは俺をあざ笑ってんのか、んん!?だから…!!そのオメガみたいな口をやめろ!」
冒頭で言い忘れたが、俺達いつもこんな感じである。
こいつは地球にいるあらゆる女子から養分を汲み上げる為に地球に来たらしく女子にしか見えないのだと。
いや、それで俺がこいつが見えるのは別にオカマだっていうわけじゃなくて。俺は中高一貫して女しか見えていない。
…何かそれはそれで変な誤解を招くかもしんねぇがこれが事実だ。
とにかく、見えるというのは何かと都合がいいらしく気づけばこいつは俺んちに居候状態。俺はキュウべえが居候することが決まった時ほど己が寮生活をしていたことに恨みを抱いたことはない。
「つーかさぁ、食いもんも必要ねぇって…何か虚しくね?お前の人生。何か娯楽とかねぇの」
「娯楽とは言えないかもしれないけれど今の僕らには感受性豊かな少女さえいればそれだけで娯楽さ」
「おい何か誤解を招くぞ、その言い方は。いっそお巡りにつき出してやろうか」
「ふぅ、君達人間は何かというとすぐに警察だね。不甲斐なくはないのかい?」
「お巡り舐めんなよこら。日本での警察の信頼度ハンパねぇんだぞ」
まぁ、警察もこんなもん見たら腰抜かすと思うけど。俺なら抜かす。そんで銃で撃つ。
ん…?そうだ。銃ならこいつの息の根止められるんじゃね!?息してんのかはわかんねぇけど!!
「なぁキュウべえ、さしものお前でも拳銃で撃たれたら…!!」
「ムダだね」
即答かよ…!!むっかつくわー。
よく女の子はこんなのと付き合ってられんなぁ。やはりこれがマスコット効果というやつか。
顔なのか、所詮世の中は顔なのか。
「少なくとも、女性達が異性を見る時に意識する点は顔だね」
「人の心の中を読むな!!ってか何でわかった!?すごいなお前!!」
「顔に出ていたよ。相変わらずわかりやすいね、君は」
う…うざい…!!
現代日本の学校でクラスに必ず一人はいる嫌われ者でさえもここまでうざくはないぞ…!!
金がかかんねぇ、散歩もしなくていいっていう点はまだ他のペットよりましだけど。
「はぁ…朝っぱらから叫ばせやがって…せっかくの休日だったのに…おいキュウべえ、手伝え」
「やれやれ、君が僕を踏み潰したからこうなったんだろう」
まだ言うか。いら立つ気持ちを何とか抑えながらキッチンへと向かう。
あいつも新聞を背中に乗せながらのそのそと戻ってきた。
それから机に新聞を放り投げて俺の肩へと登る。
「ナマエはマミやさやかより背が高いから見晴らしがいいね」
「そりゃどーも。つか“マミ”に“さやか”って誰。お前がはべらせてる女?」
「いかがわしい言い方をしないでくれないかな。二人は僕と契約した魔法少女だよ」
「ふーん。魔女っ娘系アニメは小1までしか見てなかったからよくわかんねぇけどすごそうだな」
「ナマエは少女にあまり興味がないようだね」
「おいぃ!興味ないとは言ってねぇだろ!!お前こそいかがわしい言い方をすんな!俺は年上のお姉さんの大人な雰囲気と香りが好きなんだよ」
「女性が香水をつけるのはかなりの確率で自分の体臭を隠すためだと言うのを知っているかい?それと僕の知っている限りでは…」
「何なの?お前俺のこと嫌いなの?」
今このフライパンで焼いてやろうかこの野郎。そろそろ獣肉が恋しい時期だ。
「何なら僕が君に少女を紹介してあげようか?そして絶望を植え付けてあげてくれよ」
「うわもう本当うざいな!ちょっと上からなのは何でだ!しかも絶望与えること前提!?最低だなお前!」
くっそ…!俺のこと絶対下に見てやがるなこのぬいぐるみ…!!
やっぱり焼いてやろうか。きっちり焼き目もつけてやろうか。
まぁ、こいつのしてることをとめようとしないのは薄情以外の何物でもないとは思うけど。
「うしっ、今日はうまく半熟に焼けたな。よーしキュウべえ、飯にすっぞ」
「毎日そうやって君の食事風景を僕が見ている意味はあるのかい?」
「ばっかお前なぁ。一人で食っててもつまんねぇだろ。どうせお前昼前には出ていくんだから飯ぐらい一緒に食ってけよ」
「人間の冷める寸前の夫婦や親子のようなことを言うんだね」
「どっからそんないらん知識吸収した」
一体こいつにかわいげが生まれるのはいつになることやら…。
まぁ…まだ暫くはこのアホみたいな掛け合いだらけの生活が続くんだろうから
後で胃薬でも買いに行くことにしよう。
(ペット?いいえ、悪友ですよ)