01
体力は平均より少し下。
立体起動の素質は必死に練習してやっと態勢を保てる程度。
頭の回転も突出していいわけではない。


それでも、私は…







「調査兵団に…?レイラ…本気なの?」

パンを片手に自分を心配そうな瞳で見つめるアルミンに私は笑みを返しつつ自分もパンをかじる。

「うん、私は初めから、調査兵団に入る為に兵士になったんだもの」

すると隣のテーブルからジャンが身を乗り出して、私に声をかけてくる。
その表情には少しだけ呆れに似たそれが見てとれた。


「おいおい…お前の実力じゃ、すぐ巨人に食われて終わるんじゃないか?」

「そ…それは…」

「ジャン…!!何もそん風に言わなくたってさ…!!」

「だって本当のことだろ?この前の立体起動の適性確かめた時だってエレンがあんな状態だったから目立たなかったけどよ、レイラだって今にもひっくり返っちまいそうだったじゃねぇか」


アルミンも私もジャンの言葉につまる。
確かにそうだ。自分は兵士の実力なんて無いに等しい。日に日に成長していく同期達に焦りを感じて、努力しようともその差は一向に埋まってなんてくれないのだ。

兵士の素質がないことなんて充分わかっている。
それでも自分は調査兵団に入ること諦められない。
ウォール・マリアが壊されたあの日、目の当たりにしてしまった巨人。目の前で母を、父を、そして弟まで殺された。

巨人は恐ろしかった。憎らしかった。
でもそれ以上に目の前で殺されていく家族を、ただ腰を抜かし、涙を流しながら見つめていることしかできなかった弱い自分が何よりも憎らしかった。

だから、私は強くなって調査兵団に入り巨人を倒しながら奴らの秘密の全てを暴いてやると決めたのだ。

だが今の自分はどうだ。素質がないことをジャンに指摘され、何も言い返せないでいる。
それは彼の言っていることが全部当たっているから。

それでも、自分の意志は変わらないと言うために私は震える唇を動かそうとする。

しかし、アルミンの前に座る彼によって私の言葉は口から出る前に遮られた。


「調査兵団に入れるか入れないかなんてお前が決めることじゃないだろ?」

「エ…エレン…」

今まで黙って私達の会話を聞いていたのだろうか。
エレンがジャンに向かってそう言い放った。
彼の隣に座っているミカサも目線を私達の方へと向けている。

「…何だよエレン。俺の言ってることが間違ってるとでも言うのか?」

「そういうことを言ってるんじゃねぇよ!俺はただ…」

「うるせぇ!!お前はいつもいつもそうやって俺につっかかってきやがって!」

「なッ…!!つっかかってきてんのはお前の方だろ!?」

言い争いが始まりジャンがエレンの胸倉を掴みあげた。
私はその光景に呆然とするばかりだが周りの人達はまたかという表情を浮かべながら食事を続けている。

そうしてジャンがエレンに殴りかかろうとした時に私は我に返り、考えるよりも先に口を動かしていた。

「や…やめて!!」

二人の視線が同時に此方に向く。

「ジャンの言う通りだから…私に素質なんてないし…調査兵団に入れてもすぐに死んじゃうかもしれない…!!そんなのわかってるから…!!だから…だから…!!」

そこまで言った時に私は目頭が熱くなっていくのを感じていた。
あ、ダメだ、泣く。と思った瞬間には私はその場に固まったままの二人を置いて外に飛び出してしまっていた。















いつまでそうしていたのかはわからない。10分くらいだったか、それとも1時間くらいだったのだろうか。
とにかく今の私には消灯時間なんかもう気になっていない。

私は小屋の壁に背中を預けてうずくまっていた。

やはり自分には無理なのかと。
調査兵団に入るなんて夢物語は夢のままで終わってしまうのかと。
それを考えると涙が溢れてくる。いつから自分はこんなに涙もろくなってしまったんだ。

ミカサやエレンが羨ましい。彼らはきっと何の問題もなく調査兵団に入れる。そして活躍して、いつかは分隊長にもなって…そして、私はそんな二人の遠ざかっていく背中を見つめていることしかできないのだろう。

結局自分はいつまでたっても弱いままなのだ。強くなろうと足掻いてもそれは空回りで終わる。
そう、いつまでたっても。
でもそれは仕方のないことなのだ。

そしてまだ止まらない涙を無理やり抑え込んで私は顔を上げる。綺麗な星が夜空に散らばっていた。

しばらくそうやって空を見つめていると頭上から声が降ってくる。



「レイラ」

少し驚いて後ろを振り向くと先ほどまで見ていた顔が瞳に映った。


「エレン…」

「ここにいたのか、部屋にずっと戻ってこないってクリスタ達が心配してたぞ。」

「あ…えっと…ごめん」

「謝るならあいつらに謝れ」と言った時、エレンは私が泣いていることに気付いたのか、少し怪訝そうな表情を浮かべて私の顔を覗き込んだ。


「何だよ、ジャンに言われたことまだ気にしてんのか?」

核心に触れられて、抑え込んでいた涙がまたこぼれ落ちそうなる。必死にそれを堪えつつ私は首を横に振った。


「…嘘つくなよな。バレバレだぞ」

彼の言葉に私は顔を俯かせる。

「だって…ジャンの言ってたことは本当のこと…だから…」

「別にそんなの気にしなくたっていいだろ。レイラはレイラで頑張ればいいんだし」

「え…?」

俯かせていた顔を上げ、涙のたまった瞳をエレンへ向ける。

「どうなるかなんて誰にもわかんねぇだろ。これからどんどん成長するかもしれねぇんだし。」

「私が…成長する…?」

「あぁ、もしかしたら俺やミカサだってかなわないくらい強くなるかもしんない。」


「誰にもわかんねぇんだよ」と言いながら彼は真っ直ぐに自分を見つめてくる。


「だからさ、そんなにふさぎ込むなよ。レイラが元気ねぇと俺もアルミンもミカサも調子出ねぇから。」

そう言いながらエレンは手を差し伸べてくる。
私はそんな彼の手におずおずと自分の手を重ねた。
手を握ったままエレンを見上げると


「さ、帰ろうぜ。そんでいつか調査兵団に入るぞ、一緒に!」

と言って笑いかけてくれた。




置いていかれると思った。役立ちそうにない自分なんて。

だけど彼は私を見捨てないでいてくれた。私の手を引いてくれた。
そして“一緒に”と言ってくれた。
私はそれが何よりも嬉しかった。



そして私は部屋に戻る途中何でか熱くなった頬と自分の右手を冷まそうと左手で扇いでみた。
効果なんて全然なかったけど。


そして私はエレンに手を引かれたことでもう一度頑張る勇気をもらって


それと同時に心も惹かれた。



きっとその日から

私は、彼を好きになったんだ。


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bkm
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