「レイラさん、ちょっといいですか?」
「いいよ〜、どしたのエレン」
「ええと、掃除のことでちょっと」
突如として体が巨人化して、瞬く間に人類の希望となった少年、エレンがリヴァイ班に来てからもう2週間が過ぎようとしていた。
初めは少し距離を置いていた班員達も今ではすっかり慣れてしまったようだ。オルオなんかはよく先輩の威厳を見せようとしてつっかかっている。
その時の映像を思い出してレイラは少し吹き出した。
「フフ…」
エレンがそれを見て怪訝な表情を浮かべる。レイラは慌てて緩んだ頬を元に戻して「何でもない」と言った。
「不思議な人ですね、レイラさんって」
「え、何で?」
「いや、だっていきなり巨人化した俺を見ても動じてませんでしたし」
「それはリヴァイだってそうだったでしょう?」
「そりゃあ兵長は…」と言いつつ、上手く言葉にできないのか、エレンは頭を掻いている。
レイラはそんな彼を見てにっこりと微笑んだ。
「エレンがそうやってリヴァイに感じる安心感と一緒だよ。あの時あなたが巨人化して暴走しても彼がきっと止めてくれるって思ってたから…」
「へぇ、だからだったんですか」
箒をさかさかと忙しなく動かしながら彼女は頷く。
エレンも同じように箒を動かして手を休めずに落ちかけた沈黙を破った。
「でもレイラさんは本当に兵長に大事にされてますよね」
「え〜、そうかな?エレンの知り合いのあの子に比べたら全然だと思うよ?」
「それまさかミカサのことですか…?」
「そうそう、すっごい大切にされてるじゃない、エレンが」
「冗談よしてくださいよ!」
エレンとレイラがそうして談笑していると、二人の背後から芝生を踏む音が聞こえる。
その足音の主に気づいたのはレイラが彼に腕を捕まれてからだった。
「おい」
「あ、リヴァイ」
足音の主、リヴァイは眉間に皺を深く刻んでレイラの腕に更に力を込める。
「な…何?どうしたの…?」
「兵長…?」
訳が分からず困惑しだす二人を無視し、「ちょっと来い」とだけ口にしてリヴァイはレイラを引っ張って屋内へと大股で入っていった。
「ねぇ…リヴァイ?」
「………」
「ねぇってば!!」
レイラは彼の手を振り払い、廊下の真ん中で立ち止まる。
「…どうしたの?いきなりあんなことするからエレン困ってたじゃん」
まったくもって意味がわからない。自分はエレンと庭掃除していただけだ。怒られるようなことなど何一つとしてしていない。
大体昨日一緒に夜遅くまでリビングでコーヒー片手に話していた時は全然機嫌悪くなどなかったではないか。
それが今日になって一体どうしたというのだ。掃除がなっていなかったのならあの場でエレンだって怒られていたはず。
レイラが目に涙をうっすらと浮かべながらあれこれと思案していると突然肩に重みに加わり、背中が壁にダンッという音を立ててぶつかった。
リヴァイはそんなレイラの横に手をついたかと思うと、その目を細めて深いキスを落とす。
「んッ…」
突然のことで驚いたレイラは酸素を求めて思わず口を開いた。
それが彼の舌の侵入を許すことになり、ぬるりと自分の口内へと入ってきたそれは好き勝手に暴れてはレイラの思考する力を奪っては羞恥心も同時に煽っていく。
解放された頃にはレイラは肩で息をしており、頬は羞恥で真っ赤に染まっていた。
「はぁッ…な…何を…!」
「お前の誰のモンだ」
「え…?」
「答えろ」
問いの意味がわからずただただ困惑する彼女にリヴァイは再度キスをする。
今度は短く触れるだけの口づけ。
「俺か?それとも…エレンか?」
「な…何言ってッ…!!」
彼は質問の答えを聞くまで放すつもりはないのか、今度はレイラの首に顔を埋めた。
そして「あッ…」という彼女の吐息のような声と共に首筋に紅い華が咲く。
彼はその華を指でゆっくりと撫でながら再度問いかけた。
「お前の全て…誰のモンだって聞いてんだよ」
レイラは熱のこもった瞳でリヴァイを見据えて、薄く笑った。
「……馬鹿な人」
「………」
「私がここで生きてる限り、あなたの隣にいる限り…私はリヴァイのもの」
「ちゃんとわかってるくせに」と言ってクスクスと笑う彼女をリヴァイは自身の腕の中に閉じ込めた。
「レイラ…愛してる」
その言葉にレイラは首の印が熱くなるのを感じていた。
(レイラ〜、昨日は一体どこまでいったの?)
(え?ごめん、ペトラ、何のこと?)
(何って、昨日廊下で(うわぁぁぁぁぁぁ!ペトラァァァァァァァ!!)