*長編の番外編なので名前変換は長編で使っている名前でどうぞ。
*リクエストのご要望上かなりオリジナルキャラメインになっていますので苦手な方はご注意ください。
ナマエ分隊長が俺にとってどんな存在かって?
馬鹿かお前。そんなの答えなんか決まってんだろうが。
あのお方は俺とってなくてはならない存在だよ。
例えばお前は何日も飲まず食わずで生活できるか?
何日も寝ずに生活できるか?
無理だろ。俺が言ってんのはそういうこと。
あの方は俺の動力源。定期的に分隊長に会わないと多分俺は頭おかしくなるね。
まぁとにかくナマエ分隊長は最高、この一言につきる。何で周りの奴らがもっと分隊長を敬わないのか、理解に苦しむ。
ん?分隊長の為に死ねるか?んなもん当たり前だろうが。あの人が望むなら今この場で手足の一本や二本、目玉の一個や二個簡単に捧げてやるよ。
ま、目玉はもう既に一個なくしてるけどな。
別に不便じゃねぇよ。人間目玉が二個あるのは一個なくしても普通に生活できるようする為だっての、あながち嘘じゃねぇかもしれねぇ。
それに、隻眼になる前より分隊長が俺のこと気にかけてくれるようになったから、俺としては不幸中の幸いってやつ。
喜ぶに決まってんだろ。何言ってんだお前は。心配させてるってとこだけはあんま気持ちのいいもんじゃねぇけど…
何だよ、どんな風に気にかけてくれるようになったか知りたいのか?変な奴だな。俺はいいけど他人が聞いても楽しいことなんかなんてわかんねぇぞ。
まぁ…別にそれでもいいなら話すけど。
確かあれは三年前の奪還作戦から一ヶ月くらいあとの時のことだったかな…
がしゃんと鳴り響く無機質な音。
床には元の形などわからないほどに粉々に砕け散ったカップ。机の上の受け皿にはあるべきはずのカップはなく、ティースプーンだけが虚しくのっている。
「ルイス、てめぇそれで何個目だ。いい加減慣れろ」
いち早く声を発したのは、不機嫌そうに眉間に皺を寄せながら床の残骸を眺めているリヴァイだった。
いつもなら憎まれ口を叩きながら反論してくるルイスだったが、何故か今はそうはせず、ただ左目の眼帯に手をあてている。
「…わかってるッスよ。……掃除道具とってくるッス」
リヴァイよりも幾分かイラついた態度を見せて、ルイスは静かに、それでいてどこか荒々しく部屋を出て行く。
部屋を出るや否や、彼はまるで千切りとるように乱暴な手つきで左目の光を遮る忌々しい眼帯を外した。もっとも、これを外した所で目に光なんて戻ってくるわけはないのだけれど。
「くそっ…!!」
全く持ってイライラする。開かないこの左目も、目のせいで壁外調査に連れて行ってもらえないことも、そして何より焦っているこんな自分が。何もかもが己をイラつかせる。
ガラス窓にうっすらと映る自分の姿。生々しい傷跡。痛みなど感じないのにイヤに疼く。
「…もたもたしてる時間なんかねぇんだよ」
他の誰に向けた言葉でもなく、自分自身に言い聞かせるように呟いた言葉。
早く、早くしなければ。
だがカップ一つ取るための距離感さえ上手く掴めない。そのことはルイスの中に確かな焦燥感を生む。
この状況が続いて兵士として使いものにならなくなれば、一体自分はどうなってしまうのだろう。
答えは実に単純明快だ。ナマエと共に戦うことができなくなること、それは即ち彼女の傍にいられなくなるということ、そして己の生の意味そのものの消滅を意味する。
それがどれだけ今の自分にとって恐ろしいことか。
リヴァイは何だかんだでルイスのそういった感情を理解しているのか、先ほどのことをナマエに話したりはしないだろう。あの場に彼女がいなくて本当に良かった。
だが彼女も察しは悪くはない。こんな感情を秘めたままにしていてもいずれは気づかれてしまう。
その時、はらりと手から眼帯が滑り落ちていく。ずっと考えごとをしていたせいか他へ注意がいっていなかったようだ。
ルイスは無気力な黄金の隻眼を床のそれへと向け、拾おうとかがみ込んだ。
だが次の瞬間、背中へかかった急激な重みによって、体は前のめりになり、帽子までもが地に落ちる。
「ルーイスっ、何してるの?」
「分隊長!?どっ…どどどうしたんスか!?」
珍しく慌てながら、それでもナマエを振りほどきはせずに、ルイスは少し後ろを振り向く。
だけれど彼女は面白そうにそんな自分の横顔を見つめているばかり。
別に彼女のこの行為は嫌がらせではなくて。
普段ナマエより背の高い彼に彼女が抱きつくことはほぼ不可能だ。
だからこそ、ここぞとばかりにしゃがみ込んだルイスを狙ってナマエが飛び込んできたのだ。
後ろからはナマエと一緒に行動していたのか、ゆっくりとハンジ、ザジの二人が歩み寄ってくる。
「あはは、ほらザジ、あれが世にも珍しいルイスの慌てふためく姿だよ」
「先輩…普段自分からやりまくってるのに逆にやられると駄目なんですね」
慌てるルイスを見ると思わず苦笑してしまう。
ルイスの方はそんなザジを睨みつけながらも、石のようにそこから動けないでいるようだった。
「ねぇ、ルイス」
ナマエの声に弾かれたように意識をそちらへと向ければ、彼女はいつものように穏やかな声をルイスへと投げる。
「私はちゃんとここにいるから。あなたの近くに。私のサポートを任せられるのは昔からルイスだけ。だから、あんまり急ぎすぎないようにね」
どくんと、心臓が音を立てて跳ねた。まただ。どんなに隠していても、こんな風にすぐに気づかれてしまう。
自分が焦っていたことも、ナマエと距離があいてしまうのを恐れていたことも。
「あ、でもあんまり遅すぎるのも、困るからできるだけ早くしてほしいかな」
「それは…命令ッスか…?」
「うん」と言いながら綺麗に笑う彼女は、ルイスの一番好きな笑顔だった。
昔から、自分にしか向けない笑顔がある。それがこれだった。
それは心を抉るほど美しく、彼が彼女との限りなく近い距離感を肌で実感できるもの。
そして、己のちっぽけな見栄や焦り、悩みを一瞬で消し飛ばしてくれるもの。
ルイスは自嘲するように小さく笑った後、帽子を拾い上げる。
「命令なら仕方ないッスね!」
そうして彼は背中にかかる重みに幸せを感じつつ、静かに目を閉じたのだった。
…なんてことがあったんだよ。最高だろ?さすがは分隊長だ。
あの方は俺に決して戦えなくなったっていいとは言わなかった。ただ戻ってこいって、そう言ったんだ。
まぁ、あの後すぐ復帰できたから結果オーライでよかったけどな。
それじゃ、俺はそろそろ戻るわ。ザジのやつに書類任せてきちまったからな。お前の自分のとこ戻れよ。
あ?もうちょっと聞きたかったって?
んなもんまたいつだって聞かせてやるよ。
分隊長とのことならいくら話したって尽きることはねぇからな。
あの方は俺の
世界そのものなんだから。