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「うーん、二人とも大丈夫かな」
 市街地を当て所なく歩きながら、ルアスはぼんやりと呟いた。今ルアスが居るのは、家とは全く別方向にある大通りだった。人も多くて賑やかな、普段立ち寄ることはあまり無い場所だ。本来の目的であった届け物はとうに終えていたが、少し時間を潰してから帰るかと足を延ばしたのである。
 何故か、といえば家に残してきた二人――更に限定するならば、家主である青年について思うところがあってのことだった。未だにぎくしゃくしている、というよりゼキアが頑なに突っぱねるような態度でいるのが、ずっと気にかかっていたのである。以前と比べれば多少は軟化したようにも見えるのだが、彼女に対してだけはどうにも刺々しい雰囲気が見え隠れしていた。確かにルカは富裕層の人間で、ゼキアにとって受け入れ難い部分もあるのかもしれない。しかしルアスから見た彼女は身分など分け隔て無く接する人であったし、優しく親切な女性に違いなかった。自分の知らない所で何かあったというならそれを知る由もないが、ルアスにとっては二人共恩人であり、友人だ。出来ることなら仲良くして欲しい。自分が居なければ多少は話もするかと踏んで、こういった行動に出たのである。
「……そろそろ帰った方がいいかなぁ」
 とはいえ、それが裏目に出ていないとも限らない。余計に険悪になって喧嘩でもしないだろうか。そんな不安は常に頭の隅にあった。来た道を振り返りながら、ルアスは思案する。あまり長い時間戻らなければ、二人も心配するだろう。何せルアスは、数度に渡って悪漢に絡まれた前科持ちだ。実はあまり一人で街をうろうろするな、とも言われていたりする。悲しいかな、唯一ゼキアとルカの意見が一致している部分でもあった。ルアス自身にも己が抜けているという自覚が出来つつあったので、そういった意味でも戻る頃合いかもしれない。
「うん、帰ろう」
 見計らったように腹の虫も騒ぎ始める。それほど悩むこともなくルアスは決断し、踵を返した。空腹のせいか、寒気までしてくるような気がする――そう考えて、ルアスは自分の思考に違和感を覚えた。
「……寒い?」
 思わず口に出して首を捻る。流石に腹が減っていることとそれは関係ないのではないか。
 それを自覚した瞬間、ルアスを強烈な悪寒が襲った。身体の奥底まで冷えきって、凍ってしまいそうな寒さ。気温が低いのではない。イフェスはいつもと変わらず温暖な気候を保っている。物理的なものではない、生理的な嫌悪を感じる気配だ。この、身の毛のよだつような感覚には覚えがある。得体の知れない化け物――“影”と対峙した時に感じた、あの時の恐怖感とよく似ているのだ。まさか、と思った。人でごった返した市街地の、ましてや今は日中だ。こんな所に“影”が存在して堪るものか。
 そう考えながらも振り向けずにいたルアスの肩を、何かが突然掴んだ。
「うわぁああ!?」


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