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「え……知り合い、なの?」
「姫様の話を聞いて、まさかとは思ったが……やはりお前だったか。ゼキア」
 戸惑うルカを片手で制し、オルゼスは静かに向き直った。ゼキアの姿を正面に捉えると、その双眸をすっと細める。
「心配していたのだぞ。あの後どうしているものかと」
「……どの口がそんなこと言えるんだかな。というか、姫様だ?」
 ふざけるな、と怒鳴り散らしたくなるのを懸命に抑え、ゼキアは違和感を覚えた単語を繰り返した。それを聞いた瞬間、ぴくりとルカの肩が震える。同時に、視線がゼキアから逸らされた。言葉はない。しかし、その正体を悟るのには充分だった。――絆されかけた相手が、悪夢の元凶に最も近しい人間だったとは。
「察しの通りだ。最近、頻繁に城を抜けられているようなのでな。私がお迎えに上がるよう命を受けたのだ」
「……そうかよ。だったらさっさと連れて帰ってくれ。こっちは迷惑してんだ。それに、これ以上あんたの顔なんざ見たくもない」
 そう吐き捨て、ゼキアは二人に背を向けた。背後から微かに憂うような溜め息が聞こえたが、振り返ることはしなかった。これ以上会話を続けては、頭がおかしくなってしまいそうだ。早く、早くこの場から居なくなれ。願うのはそればかりだ。どうか、自分の中の何かが崩れてしまう前に。ゼキアの望む通り、音を立てて扉が開く。だが、彼女は黙って立ち去ってはくれなかった。
「待ってオルゼス。ゼキア、あの――」
 その言葉が、最後まで紡がれることはなかった。乾いた音が鳴るのと同時に、ルカの唇は閉ざされる。伸ばされた手を、咄嗟に振り払わずにはいられなかったのだ。
「……さっき話したばっかりだろ。俺にとって、王族なんて諸悪の根元みたいなもんだ。二度とその面見せんな」
 自分でも驚くほど、感情の篭らない声だった。彼女は、一体どんな顔をしただろうか。それすら確認もせず、ゼキアは逃げるように身を翻した。早足で二階への階段を上りきると、知らず知らずに詰めていた息を吐く。僅かに、扉を閉める音が聞こえた。今度こそあの二人が出ていったのだろう。確信できた瞬間に全身から力が抜け、ゼキアはずるずると床に座り込んだ。
「……くそっ」 
 必死に激情を抑えていた反動のように、様々なものが頭の中で渦を巻く。忌まわしい出来事。全てを失い、裏切られたと悟った、あの日。いっそのこと、何もかも忘れてしまえればいいと、何度思ったことだろうか。なぜだか、目頭が熱い。望まずとも反芻される記憶を押し戻すように、ゼキアは固く目を瞑った。


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