変わらぬ忠誠を、貴方に すぅ、すぅ、と人間らしい音を立てて体を上下する小さな身体。 ロボットモードの時にも愛らしさを感じるが、少年のこの姿もまた一段と可愛らしい。 さらり、とふんわりした髪を撫でれば、ぴくりと小さな手が動いたけれど起きる様子は無い。 サイドテーブルの明かりに照らされた部屋の中で雪菜が小さく欠伸を漏らしたその時、部屋の入り口にトン、と足音が響いた。 「ここにいたのか。」 部屋の入り口からついで届いた普段通りの声に、雪菜は慌てて振り返って口元に指を当てる。 しー、というジェスチャーを送れば、入り口に立つブラックアウトもその意味を汲み取ったのか、すぐに口を噤んだ。 ちらり、と薄暗い部屋、雪菜の背後に視線を落として少しだけ頬を緩めたように見えた彼はそのまま足音をとしてそっと部屋の中へと進み、雪菜の前で足を止める。 「どうしたの?」 「いや」 「スコちゃんが眠たそうだったから寝かしつけてたの」 ロボットに風邪をひくという概念はないだろうが、ドローンのスコルポノックはエネルギー効率も悪い為、主であるブラックアウト達のように体温調節をあまり行わないと聞いたことがある。 実際に熱がこもるのも、冷えすぎるのも駄目だろうと、すやすやと薄着でスリープモードに突入したスコルポノックの上にそっとブランケットをかけようとすれば、ブラックアウトがその端を掴んで手伝うようにスコルポノックに丁寧にかけた。 「何か用でもあった?」 「いや、特にない」 どこか少しだけ言い迷った様子のブラックアウトに雪菜は小首を傾げたが、それ以上問うことも無くスコルポノックへ視線を戻した。 たまにこうして彼が突然探しに来ることがある、それは決まって視界の中に雪菜が居ない時。 用事がなければ探す必要もないのだけど、普段仲間やドローンと通信回路で繋がっている彼としてはどうも落ち着かなくなるようだ――それが可愛いと感じてしまうのは秘密だが。 「スコちゃん、今日は一日外で遊んでたから疲れたのかな」 「ああ……すまない、迷惑をかける」 「いいのいいの」 視線を少しだけ落としてブラックアウトがスコルポノックの額へと手を翳すと、心無しかスコルポノックの頬が緩んだように見えた。 内部回線を一部共有している主とドローンという関係だからだろうか、それでもその姿はどちらかというと子を愛する父親に見えてしまうのが微笑ましいところだ。 「寝てる時も、スコちゃんは今ブラックアウトが何を考えてるのかわかるの?」 「いや、起きてからダウンロードする。こちらから今無理に起こすことはできるが……」 「あ、起こさなくていいからね」 キュイと聞こえた音に雪菜がブラックアウトに触れてそれを静止すれば”そうか”と返事が一つ。 そのままベッドに腰掛けた雪菜をじっと見下ろした2つの紅い瞳に雪菜は小首を傾げて視線を見返せば、やがて彼は視線を逸らしながら雪菜の隣へと腰を下ろした。 何か言いたそうな雰囲気に暫く彼が口を開くのを待っては見たが、生憎スコルポノックを撫で始めた彼は口を開かない。 「……不便」 「……?」 「ブラックアウトとスコちゃんは言葉にしなくても回路を共有できるのに、私は共有できない」 「それはお前が人間だからしょうがないんじゃないか」 言われなくても分かっていると口を尖らせれば、何を思ったのかスコルポノックを撫でていたブラックアウトの手が雪菜の頭に翳された。 そっと撫でてくるその動きが、スコルポノックにするのと全く同じもの。 ディセプティコンらしくもないその行動は差し詰め自分も彼のドローンといったところだろうか。 「それも悪くないなぁ」 「何がだ?」 「貴方のドローンになるのも悪くないなって思ったの」 ”バリケードは御免だけどね”と胸元に頭を傾けて笑えば、頭を撫でていた彼の手が僅かに音を立てた。 すり、と人肌に調節されている胸元に鼻をくすぐれば、温かい熱が頬をくすぐる。 「……無理だ」 「うん?」 「せめて通信回路が開ければいいんだが」 至極真顔で少し唸った後に、ぽつりと”ドクターに…”なんて呟き始めるブラックアウトに、雪菜がくすりと口元に笑みを浮かべてブラックアウトの首元に唇を落とした。 ”まだ死にたくない”と告げればまたもや黙ってしまうブラックアウト、そんな彼にも慣れたものだと苦笑を浮かべて身体を離そうとしたその時。 「ドローンはスコルポノックだけでいい」 離れる自分とは逆にいつの間にか頭から腰に落ちていた彼の腕がぐっと自分を引き寄せる。 カシャン……、と響く小さな機械音に、雪菜はもう一度微笑んで彼の腕の中に身体を戻した。 **** title from STAR DUST >>back |