TF-short | ナノ
 


*いろいろ捏造です




hoooome





ドアノブに鍵を差込んで、雪菜は違和感に眉を寄せた。
少し前に家を出たときに、鍵はかけて出たのに思い違いはない。
それなら、とそっとドアを開けて家を覗きこんだ先に見えたグリーンの懐かしい布に、雪菜は思わず息を飲んだ。

「く……クロスヘアー、ズ?」
「よぅ、嬢チャン」

恐る恐る声をかければ、それに呼応するようにひょこりと顔を出したのは、長身の男。
見慣れたその姿が視界に入るや否や、雪菜の全身が”銃口を二つ、頭に突きつけられた”ように固まった。

「え、え?」
「どこ行ってたんだ。スパークが干からびるぐらい待ったぞ」
「え、っと」

目の前で何事もなかったかのように言葉をかける男、クロスヘアーズの事を、雪菜は確かに知っている。
1年程前にいきなり現れたかと思えば、高級車からトランスフォーマー、はたまた人間にまで”変形”して見せた彼に、寝床と”リペア”を提供したのは雪菜自身だ。
(最初は傷だらけだったクロスヘアーズが全くもって雪菜に心も開かない割りに、傲慢にもそれなりのリペアだけは要求をしてきて途方に暮れたのは、未だに良く覚えている。)

「何だ?イかれちまったか?」

そう言いながらクツリ、と喉を鳴らして笑うその独特な笑い方が耳に聞こえたかと思えば、ギシり、と玄関の床板が軋む。
一歩こちらへと歩みを勧めたクロスヘアーズに、思わず肩を縮こませれば、今度は彼が少し驚いたように片眉を上げた。

「何で……居る、の」
「お前、本気でクラッシュしちまったのか?」

おいおい、マジかよ、なんていう呆れた低い声色に雪菜は震える喉を抑える様に、つばを飲み込んだ。
ある意味クラッシュしている脳内をフルで働かせながら、雪菜は”あの日”……彼が書き置きを一枚残して出たいった1年前の記憶を何とか思い出す。
確かに「すぐ戻る」とは書いていたが、待てど暮らせど帰って来なかった彼に雪菜がどれだけ枕を涙で濡らしたかなんて……思い出したくもない、とズクリと胸が悲鳴をあげた。

「”テレビ”とやらで観てねぇのか?」
「ぺ、北京の、」

very nice memory、と笑ったクロスヘアーズに、ついに瞳に溜まっていた雫が雪菜の頬へと伝い落ちる。
それがきっかけになったのか、いつの間にか止めていた息を肺から吐き出すと、雪菜はぽろぽろと溢れ落ち始めた涙を抑える事はせずに、目の前の彼へ手をそっと伸ばした。

「だ、だって、貴方が居なくなったのって、1年ぐらい前で、」

その間にも、彼はどこから調達したのか、片手に持っていた瓶ビールの蓋を片手でいとも簡単に開けながら、少し深い蒼い瞳で雪菜の様子を観察したいのだろう、静かな空間にカシャリと懐かしい音が響く。
全くもって雪菜の反応の意味がわからない、と言わんばかりに”万物共通の飲み物”と以前称していたアルコールを差し出してくる彼に、雪菜は首を振りながら、代わりに彼の大きな手に自身の手を重ねた。

「おいおい、お嬢チャンのブレインサーキットもイかれちまったのか?」
「だ、だ、って、帰って、来ないと、思、」
「hun?」

ついに嗚咽を漏らして泣き始めた雪菜の言葉に、クロスヘアーズの焦った声が大きく響く。
ドン、と床に瓶ビールを置いた彼がもう一歩雪菜へと近づき、腰を降りながら涙を零す雪菜の顔を心底驚いた様に覗き込んだ。

「たった1年だろ?すぐ戻るって書いだろ、覚えてねーのか?」
「1年だよ!!」

大きな声で雪菜が言葉を吐けば、今度はクロスヘアーズのカメラアイが驚いたように少しだけ見開かれる。
その不思議そうな彼に、雪菜は一年前の記憶を思い返しながら、ソファで膝枕をしながら彼へと確かに告げた言葉を痛む胸の内から吐き出した。

「私、たち人間はっ、100年も生きていられないって、何度、言っ、た、って、」
「あー」

That's I don't remember(それは覚えてネェ)、なんて少しだけ申し訳なさそうに息を吐きながら呟いた彼に、雪菜は未だに顔を覗き込んでいる彼を揺らぐ視界で見つめながらその頬へと手を伸ばす。
指先に伝わる少し低い熱、幾度となく触れたその"肌”に、甘い記憶が蘇る自分を少し浅ましくも感じながら、それでも目の前にいる彼を改めて確かめるように、雪菜はもう片方の手も頬へと寄せた。

「泣くな、どう対応したらいいか分からんって言った事あるだろ」

それは覚えてんのか?と両頬を掴んだままの雪菜の瞳を焦ったように覗き返せば、雪菜は小さく頭を縦に落とした。
一体何から彼に問えばいいのか、何から責めればいいのか、何から話せばいいのか。
ぐるぐると様々な感情に雪菜が言葉を詰まらせていれば、不意に二人だけだと思っていた雪菜の耳に、全くもって聞きなれない声が飛び込んできた。

「んで、俺のことはいつ紹介してくれんだ、ヘアリー?」

ヒュゥ、という口笛と、楽しそうな声色。
それに弾かれるように雪菜の両手から消えた熱と、蒼い瞳。
代わりに視界いっぱいに広がるのは、まるで自分を隠すかのような大きな背中。

「なっ、え!?」
「……空気読めよ、おっさん」

どうやら、家に勝手に上がっているのはクロスヘアーズだけではないらしい。
仲間がいるのはニュースで観ていたが、だからといって勝手に人の家に押し入って……、という小言は今は言葉にはせずに。

「紹介する、こっち来い」

視線で部屋の中をさしたクロスヘアーズに、雪菜は鼻をすすりながら何とか息を深く吸い込みながら頷く。
そしてリビングへと向かおうとした彼の背中に、手を伸ばして彼の深い緑のTシャツの裾を引っ張った。

「……何だ?」
「家に”帰って”きたら、言う事あるでしょ」
「I'm hoooome」

ニヤと笑いながら、懐かしむようにクロスヘアーズから紡がれた言葉。
そして唇の口角を掠める様に落とされた軽いキスに、雪菜の心臓がようやく懐かしい鼓動を鳴らした。





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キャラ模索中、捏造万歳ですうはー。