![]() 5 secs n mins ジッとこちらを見下ろしているであろう視線を感じながら、雪菜は手元に視線を落とした。 気まずい空気、一体どれぐらい時間が経っただろうか。 雪菜が視線をあげて微笑んで”気にしてないよ”と一言伝えれば全て解決する、けれども……と、雪菜はぐっと唇を噛み締めた。 「おい」 「……」 「いつまで黙り続ける気だ?」 「……」 珍しく饒舌な男、バリケードの言葉が雪菜の耳をくすぐる。 これだけバリケードのほうから言葉をかけてくる、それだけで既に十分なのに。 形容し難い雪菜の複雑な心境は、残念ながらそれでも治りそうにも無い。 「……ついに耳まで聞こえなくなったのか」 「……だ、って、バリケードが悪いんだから……」 ぼそりと精一杯口から漏らした言葉は、思った異常に幼稚な一言。 もっと理論的に、端的に自分の思いを口にできたらいいのに、もやもやと燻る黒い感情に雪菜は瞳を閉じた。 映画館の前で待ちぼうけを食らう事2時間、そして肩を落として家に一人戻ってきて……ひょうひょうと現れたバリケードに、雪菜が怒りを露にしたのがかれこれ1時間程前の話。 久し振りのデートだと浮かれていたのは、結局自分だけだったなんて、今涙を流していない自分を褒めてやりたい程だ。 「テメェ、」 「だって」 「あと何回同じフレーズを言う気だ?」 「痛っ」 途端に、ぐっと引き上げられた顎に気付いて雪菜が瞳を開けば、そこにはしっかりとこちらを射抜く紅い瞳が2つ。 有無を言わさぬといった様子で雪菜の顎をしっかりと手で掴んだバリケードの”いつも”の瞳に、雪菜は思わず視線を彷徨わせた。 「言いたい事があるなら言え」 「……」 低く唸るバリケードの声色からして、十分に彼の苛立を感じる。 が、それでも頑に視線を合わそうとしない雪菜に、彼はついに盛大な舌打ちを一つ漏らして雪菜の顎から手を引いた。 「5秒」 「……え?」 「5秒で機嫌を直せ」 そう告げたバリケードが、ポケットから煙草を取り出す。 その仕草を目を瞬かせて追いかけてから、雪菜は怪訝に眉を潜めてみせた。 「何それ。私はそんな簡単じゃ、」 そんな雪菜の言葉なんて、勿論バリケードに届いている筈もない。 その代わりに煙草をくわえたまま、ギシリと響いてきた音に雪菜が慌てる間もなく……自分の両サイドのベッドが深く沈む。 勿論、バリケードがベッドに腰掛けていた自分の両サイドに手を沈めてきたからで……自然と近くなる煙草の煙に、雪菜は露骨に顔を背けた。 「5、」 「ちょ、」 「4、」 「え?」 「3、」 「やだ、何……?バリケード?」 カウントダウンが進むに連れて、少しずつベッドの深みが増してくる。 そして同時に近づいてくる煙草の先と、バリケードの身体に雪菜の背中にぞくりとした冷や汗が流れ始めた。 「2、」 「え、ちょ、待っ、」 がしり、と両腕を掴まれてしまえば、雪菜の頭の中にある最悪の結末が警鐘を鳴らす。 グラリと揺れた視界、そして身体の傾く衝動についに観念したように雪菜は口を開いた。 「1、」 「分かった!機嫌直すから!」 「直す、じゃ遅い」 ハン、と愉しそうに紅瞳を僅かに細めて口角をあげたのが視界に飛び込んだ頃は既に時遅し。 ついにポスンとベッドに倒されてしまった雪菜が、慌てて身体を起き上がらせようとして――……視界のすぐソコにあるジジジと音を立てる煙草に身体を強ばらせた。 今不用意に動いてしまえば、雪菜の体に灰が降ってくる事は明確。 むしろ今でさえ十分に落ちてもおかしくないその灰に、雪菜は身体を強ばらせながらバリケードを瞳に写した。 「機嫌、直した、から!」 「遅い」 「だ、だって!バリケードが悪いのよ、一緒に行こうって……誘ってたのに……」 できるだけ身体を動かさない様にして、そして静かに雪菜が口から音を漏らす。 そんな雪菜をバリケードは相も変わらず射抜く視線でこちらを見下してたが、やがてふと気がついた様にくわえていた煙草を取り上げ、床に灰を適当に落とした。 「そうか」 「そ、そうよ……ちゃんと、チケットも前売りから買って楽しみにしてたのに……」 「行く、なんていつ俺が言った」 「……行かない、とも言わなかったじゃない」 雪菜が喋るようになったせいか、雪菜を写す視線が心無しか緩んだ気がする。 その視線と、そして何時落ちてくるか分からない灰から解放された雪菜は、ころん、とベッドの中で身体を反転させながら、ふかふかのそこへと顔を埋めた。 「せっかく……久し振りのデートだって思ってたのに」 「だから、ンな普段履かねー下着つけてんのか?」 「や!ちょっ!」 雪菜が心の奥深くに納めていた感情をぼやいてすぐに、ひやり、とスカートを捲った太股に冷たい風が過る。 次いで、同じくひやりとした冷たい手で雪菜の太股を遠慮なく触り始めたバリケードに、雪菜の身体がびくんと飛び跳ねた。 「デートはまだ始まったばかりだろう?」 「……そもそも今日のデートはキャンセルでしょ、っん、」 ゆっくりと撫で、そしてその感触を楽しむ様に這い上がるバリケードの指先に、反応したくなくても身体が小刻みに震え始める。 背後から雪菜の両腕を頭上で一つにまとめ、そして首筋に官能的な熱が落とされ――いつの間に煙草を消したのか――、雪菜の喉が甘い音を奏でた。 「今度は5分待ってやる」 「な、なにっ、が」 ん?と愉しそうに喉を鳴らしたワザとらしいバリケードの声に、雪菜が恨みがましく顔を捻って彼を見返そうとして……視界ギリギリにバリケードを見返す。 そんな雪菜の視線を受け止めながらも、しゅるりと慣れた手付きでネクタイを外した彼は、そのまま雪菜の視界をソレで簡単に塞いでしまった。 「や、」 「……テメェ身体が正直になるまで、」 5分、ともう一度告げたバリケードの言葉は、最早雪菜の鼓膜を甘く揺らすだけ。 見えなくなった視界のせいか、ヤケに甘く響いたそれに、雪菜は最後の抵抗とばかりにぐっと唇を噛み締めた。 勿論、そんな行為が無意味な事は、5分もしないうちに分かる事だと知っていながら……。 ***** 何が書きたかったんですか^q^ バリさんが映画デートをすっぽかしました。 その理由は雪菜嬢のお気に入りの俳優なんざ見たくねぇ、って理由だったらいいな! それだけです、5秒で機嫌を直せと言われたかっただけのお話でした(土下座 >>back |