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My favorite colour!




ヒラヒラ、と風になびくスカートは薄い紫色。
その隙間からのぞく腕に巻かれた、濃い紫色の腕時計へと視線を落として、雪菜は笑みを浮かべた。

「ねぇ、見て」

こつこつ、と目の前にある大きな金属の塊――、ショックウェーブの足を雪菜が軽く小突けば、僅かな機械音が響く。
ちら、と大きな大きな彼に視線を向けると、丁度上半身だけを捻ってこちらを伺う彼と視線がぶつかった。

「ほら!」

これが普通の人間に見せるだけなら、その差はたかだか数十センチだろう。
それでも、こちらを振り返るショックウェーブは(いつものことだが)人の形を模していない状態。
つまり数メートルあるその差を埋めるように、雪菜は高々と片腕を上げて見せた。

『何だ』
「新しい腕時計を買ったの。可愛いでしょう?」
『人間の定義では、それを可愛いというのか』
「んー、わからないけど、少なくとも私は気に入ってるわ」

そう告げてにっこりと雪菜が笑みを浮かべれば、まるで虚を突かれたようにショックウェーブの瞳が僅かに微動した。
そしてそのままゆっくりと、雪菜を踏まないように体を一歩下げて雪菜へと向き直ると、同時にギュイと音を立てて紅い瞳がパチリと瞬く。
――まるで理解ができない、と言わんばかりのショックウェーブの反応に、雪菜はくすりと笑みを零した。

「綺麗な色だと思わない?」
『……』
「ほら、文字盤も紫なのよ、これ」
『……そうか』

それがどうした、といった彼の反応に、雪菜は目の前でしゃがみこんでマジマジと雪菜の腕元にカメラアイを注いでいるショックウェーブの姿を見つめあげる。
その瞬間にトクンと小さく跳ねた鼓動は、最早今更たじろぐものでもない。
初めて見たその瞬間に、心が奪われた。
日に当たる綺麗な紫色、そしてこちらを見下ろした紅い視線。

『何故』

今まで他のオートボット達との関わりもあったし、"慣れ"ていると思っていた筈なのに。
あまりに"違いすぎる"ショックウェーブへの想いを自覚すると同時に戸惑っているところに、恋は理屈じゃないのよ、なんて某副官の彼女に言われた言葉を思い出しながら、雪菜は苦笑を浮かべた。

『何故、』
「あ、ごめん。なぁに?」
『何故、お前は紫を好む?』

壊さないように、彼なりに相当努力をしたのだろう。
弱弱しく雪菜の腕に文字通り"触れ"ながら響いてきた、特有の電子音に近い声。
その声に小首を傾げれば、すぐに雪菜の大好きな(第三者が言うには感情が篭っていないそうだが)ショックウェーブの声が、ふってかけられた。

「紫が好きなの」
『……』
「何でだか分かる?」

腕に触れたショックウェーブの指先から腕を放し、変わりにそこに身体を寄せてみる。
すぐにビクりと警戒するように動いたショックウェーブだったが、動かないのがベストと判断したのだろう。
動かない彼の手をいいことに、雪菜は彼の掌へと腰をかけるように身体を預けた。

『……』
「ショックウェーブの色だからだよ?」

ナチュラルに、フランクに。
そう心がけながら事も無げに呟いてみたものの、カッと熱くなってしまう頬を隠すように、雪菜はショックウェーブの手にそのまま顔を埋めた。
お願いだから、今だけは体温探知なんて――スキャンなんてかけないで、と小さく願いながら。

『……』
「……」
『……』
「せめて……何か反応を、してくれると嬉しいんだけど」

一世一代の告白、とまではいかなくとも、今の一言は雪菜なりにかなり頑張った一言。
それでも、相変わらず微動だにせず、そして何も言葉がかけられないまま数十秒が経ってからようやく、雪菜が恨めしそうにショックウェーブを指の間からそっと見上げた。

『反応?』
「う、うん」
『お前が紫を好きだという理由が、俺の色だからって事に対してか?』
「……そ、そう」

こくこく、と頭を必死で落としながら見上げたショックウェーブの瞳は、相変わらずキラキラとした紅い光を灯している。
つい先ほどまで腕時計に視線を落としていたのに、気がつけば雪菜の顔へと注がれているその視線(他から見れば違いが分からないそうだが)に、雪菜は気恥ずかしさにぴょん、と彼の腕を飛び降りた。

「ねぇ、まだ気付かないの?」
『……?』
「貴方ってもしかして、鈍いの?」

相変わらず小首をかしげる(風に見える)ショックウェーブを前に、ついに雪菜の口から溜息が自然と漏れる。
けれども、そんな雪菜の心境なんて勿論ショックウェーブには何一つ伝わってなどいないのだろう。
これ程までに、分かりやすいアピールをしているのに、だ。(バリケードに何度からかわれた事か!)

『理解に苦しむ』
「え?」

不意に、地面を見下ろしていた雪菜の視界とは別に、耳元にショックウェーブの言葉が振ってきた。
その問いかけに地面を見つめながら瞬きをする事暫く。
ショックウェーブからの質問の意図がついに汲めずに、雪菜はゆっくりと顔を上げた。

『どうしてお前が、俺の色を好む必要がある?』

他の機械生命体達に比べれば、彼は表情が"少し"乏しいほうだと人は、仲間はいう。
けれども今、雪菜の視界に映るのはどちらかというとブレインサーキットいっぱいに疑問を抱いている表情に見えるものだから――恋の力は本当に恐ろしい。
そんなショックウェーブを上に、雪菜はついにクスクスと笑い声をあげて彼の綺麗な紫のボディーの手元に唇を落とした。

「だって貴方のことが好きだから――好きな人の色だもの」

当たり前でしょう?とその大きな手に頬をよせながら、笑みを零す。
ワンピースも、腕時計も。
本当ならば全身紫にしたいところだけど、それはさすがにファッションセンスが問われてしまいそうで、と。
変わりに手にしていた手帳の紫も見せ付けるように彼へと翳せば、途端にプスンと気の抜けた空気音が大きく雪菜の周りに響いた。

「ショックウェーブ?」

その空気に雪菜の髪がふわりと一瞬吹き上がる。
そしてキュルキュルと静止時にも聞こえていたその電子音が一瞬にして止まってしまった変化に、雪菜が驚きに目を軽く見開かせる。
トントン、トントン。
何度か彼の腕を引っ張ったり、叩いてみても反応が一向に帰ってこなくなってしまったショックウェーブに、一握の不安が雪菜の胸を駆け巡るとほぼ同時だろうか。
遠くのほうで、人型のドリラーが"ますたーが!ますたーが!ショートした!"という声が雪菜の耳に飛び込んできた。





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音波さんはストーカーキャラのイメージがついてるんですが、
ショックウェーブさんはなかなかキャライメージがつかめません……!
れんしゅう、れんしゅう。

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