TF-short | ナノ
 




Pax Transformers





オートボットとディセプティコンが和解してから随分と月日が経った。
それと同時に、ここ、NEST基地内においても一般的には"もの珍しい"光景もある意味日常的なものになった、のだが。

「何をしてるんだ、ここで」

それでもレノックスがうっかりと声をかけてしまったのは、その光景があまりに違和感があったから。
確かに、まだ仲が良いとは決して言えないものの、オートボットとディセプティコンが言い合ったりじゃれあう光景もよく見る。
更には、NESTの隊員達とオートボット達やディセプティコン達が会話やドライブをしている光景すらも日常茶飯事になった、のだが。

「見てわからないのか」
「……誰かを待っているのか?」
「そうだ」

問い返された内容にレノックスが返事をすれば、目の前の男、メガトロンはフン、と不機嫌そうに鼻を鳴らした。
人を待っている、確かにそう見えないことも無い。
けれども、"あの"破壊大帝の異名を持つメガトロンが、誰かを待つなんて光景は少なくともレノックスは目にした事が無い。
いつもなら、サウンドウェーブやブラックアウトが基地内にも関わらずに大層立派なリムジンなんてものを用意して送迎をしているのに。
どういう事か、今は軍のカフェテリアの前でぽつん、と一人立っているのだから、その違和感といったら。

「誰を待っているんだ?」

そうまでしても待ちたい相手がメガトロンに居ただろうか、否、レノックスの記憶にはそんな相手は一人も居ない。
それよりも、誰が"あの"メガトロンをこの寒空の下待たせているのか、そちらの方が気になる、とレノックスは首に巻いていたマフラーから顔を出した。

「お前には関係ない、下がっていろ」
「つれない事言うなよ、なぁ、誰を待ってるんだ?」

ス、とレノックスを一瞥したメガトロンの紅い瞳が、不機嫌そうに歪んだかと思えばすぐに元あった位置に視線が戻されてしまう。
ぐいと彼のコートを軽く引っ張ってみても、ずっと一点を見つめたまま全く動かないメガトロンに、レノックスは訝しげに首を傾げた。
いつもならば、近寄ろうものならむしろ脅されたりすらしていたけれど。
今こうして隣に自分が立っていても全くの無反応なのはいかに、とレノックスはそっとメガトロンの視線の先を追いかけた。

「まさか、隊員と約束か?」
「……お前には関係ないと言っている」

目の前にチラホラと見えるのは隊務を終えた内勤の隊員達。
まさか、メガトロンが誰かと約束をする等……と、尋ねた質問に余ほど彼が邪魔なのだろう、再度同じ言葉と供にメガトロンは大きな溜息を漏らした。
その溜息、そして醸し出ている雰囲気に普通の隊員ならば、その仕草に恐怖を抱くのだろうが……生憎、レノックスには通用しない。

「ごめんなさい、待ちましたか?」

そんなやりとりをしていた最中に、ふと小走りに建物から出てきた女性隊員のうちの一人から声をかけられる。
そして、コチラに小走りに向かって来た姿を見つけて――レノックスは目を見開いた。

「な、雪菜?!」
「あれ、大佐。どうしたんですか?」

それもその筈だ、目にしたその姿はレノックスも良く知るNEST隊員ではあるものの、いわゆる内勤業務の女性隊員、雪菜だからだ。
普段は経理担当という事もあり、オートボットやディセプティコンとは殆ど関わり等無い筈なのに。
当たり前の様にメガトロンの元に駆け寄った雪菜を驚きと供に見つめていれば、やがてメガトロンの前に立った雪菜は嬉しそうに彼を見上げた。

「遅い」
「ごめんなさい、少し仕事が長引いてしまって……」
「ふん、それなら連絡を入れたらいいだろうが」
「今朝方、貴方が私の携帯電話を壊したの、覚えてますか?」

途端に、む、と少し不満そうに口を尖らせ雪菜に、先程までの不機嫌な面構えはどこへやら、今度はメガトロンが手を伸ばして雪菜の頬に触れる。
そして同時に響くのは、彼の可笑しそうなクツクツとした低い笑い声。
あまりの衝撃にレノックスが思わず耳を疑ってしまいながらも、恐る恐ると視線を横に向けてみれば……口元に綺麗な笑みを浮かべているメガトロンの姿。
そもそも"笑う"なんて機能を供えている事にすら驚きを隠せないというのに、今の彼はどこかあやすかのように拗ねた雪菜の唇を人間に模した人差し指で拭っているではないか。

「目覚ましの設定時間を間違えたお前が悪い」
「だからって何もへし折らなくったって……!」
「わかったわかった。週末に新しい携帯を買ってやるからいい加減に機嫌を直せ」

その言葉に暫くメガトロンを見つめていた雪菜は、ワザとらしく肩を落としてみせたものの、その表情はやはり嬉々としている。
勿論、それを見つめるメガトロンの横顔の……恐ろしくも、何と愛おし気な事か。
そんな慣れたような二人のやりとりを呆然として見ていたレノックスはやがて、"今朝方"という二人の間に出てきた言葉にポリ、と頬をかいた。
野暮な事は聞く訳にもいかない、とは分かっているのだけれど……こればっかりは。

「……お前等、もしかして付き合ってるのか?」

そう尋ねて暫くして、目を瞬かせた雪菜が不意に頬を真っ赤に染め上げた――それが、同時に全てを物語り、レノックスはガラにもなく"えっ"何て声をあげてしまった。
確かに、他のオートボット達が、そして一部のディセプティコン達が人間相手に恋愛関係に進展したという事は度々耳にはしている。
だが、何といっても"あのメガトロン"がまさか、普段から"虫ケラ"と悪態吐いている人間相手に恋愛関係になっていたとは。

「えと、付き合ってるの……でしょう、か?」
「なんで疑問系なんだ」
「だって、なんだか上司の前で報告するのって照れるじゃないですか」
「今更何を言っている」

呆れた様に嘲笑を漏らしたメガトロンは、何か問題でも、と言わんばかりにレノックスを振り返る。
その瞳を真っすぐに受けたレノックスは、暫く虚をつかれた様にメガトロンを凝視してから……ゆっくりと口の端を持ち上げた。

「なんだ、そうだったのか」
「あ、あのっ!別に隊務に支障は出していませんから、その!」
「いや、気にしなくて良いんだが」
「安心しろ、お前が降格になったらディセプティコンで雇ってやる」
「貴方に仕えるならまだしも、スタースクリームのお守りはゴメンです」

今の今まで会話なんて殆どなかった筈なのに、雪菜が現れてからのメガトロンの何と饒舌な事か。
ニヤニヤ、と普段なら絶対見れないような笑みまで浮かべたメガトロンと、そして隣で首を横に振る楽しそうな雪菜。
その二人をまじまじと見つめてから、レノックスは胸に浮かんだほくりとした温かい感情に大きく伸びをした。

「あーあ、ったく」
「どうかされましたか?」
「いや、平和になったなーと思って」
「ふん、俺は平和など好かん」
「まぁまぁ。んじゃ、デートのお邪魔虫は消えるとするか」

"ごゆっくり"と二人に告げれば、雪菜からは"お疲れさまです"、そしてメガトロンからは"さっさと下がれ"なんて声がレノックスの背後にかけられた。
そしてレノックスが歩みを進める事、ほんの1分程。
そっと後ろを振り返てみると、少し離れた所でメガトロンのコートのポケットに手を入れた雪菜が嬉しそうに笑う横顔、そしてメガトロンが何やら口元を挙げて笑う姿が目に入った。

「ハハ、本当に平和になったもんだ」

その姿を、カシャリと携帯の写真に綺麗に納めてから、ボタンをカチカチと弄り。
"号外"なんてタイトルとともに軍のメーリングリストに送信してから、レノックスは冷えた首を温める様にマフラーに顔を埋めて歩き出した。





****
普通なメガ様が書きたかっただけです。
スタスクなら照れ隠しにぎゃんぎゃん言いそうだけど、メガ様は堂々としてそう。
照れるのも可愛いと思うけど、今回は堂々タイプでした(何

>>back