![]() Am i what? 不意にずしりと両肩に感じた重みに、思わず手にしていたファイルを抱え込む。 そして同時に"雪菜"と自分を呼ぶ聞き慣れた声に、驚きに見開いた瞳の目尻をすぐに落とした。 「ビー、どうしたの?」 「雪菜の姿見つけたから、走ってきちゃった」 「走ってきても何も出ないわよ?」 くす、と漏れる笑みを隠す事無くゆっくりと首を後ろへと回すと、ふわりと揺れる金色の髪の毛が視界に飛び込んでくる。 少しだけ緩められた腕を良い事に雪菜が身体を反転させれば、どこか名残惜しそうではあったけれどもすぐに正面から彼、バンブルビーの姿を目に捉えた。 その背後に見えるのは、米粒サイズの双子の姿。 走ってきた、と言ったのはどうやら本当なのだろう、それでも息一つ切らしていないバンブルビーにはさすがといったところか。 「仕事は終わったの?」 「もう少しってところ。後はこれをインプットしておしまい」 「じゃあ終わったら僕と一緒に映画を見ない?ジャズが面白い映画があるって教えてくれたんだ」 小首を軽く傾げて目の前で無邪気に笑ったバンブルビーに、雪菜もまた頬を緩めたまま笑顔で頭を縦に振って返事を返した。 こうしてバンブルビーからのお誘いを受けるのはこれが初めてではない。 ほんの数日前にはどこから仕入れてきたのか、日本のアニメなんてものまでダウンロードしてきて一緒に見たばかり。 今回はジャズのオススメ、ともなれば恋愛モノだろうか……等と雪菜がふと考えを巡らせていれば、目の前に立っていたバンブルビーの唇が緩いカーブを描いた。 「じゃあ、約束のハグは?」 そう告げて、両手を広げてみせる。 それが意味するコトを分かっているが故に、雪菜もまた軽く笑みを零してから一歩だけ、足を前へと進めた。 「はいはい、約束。ビーはもうお仕事終わってるのよね?」 「勿論だよ!じゃないと雪菜をデートに誘ったりしないよ」 ぎゅ、と軽いハグを贈るビーに尋ねると、自信満々に胸を張って答えるバンブルビーの笑顔には自然と雪菜も笑みが溢れてしまう。 これがレノックスやエップス相手、もしくは他のオートボット相手だとしたらきっとこんなハグなんて交わせない。 それでも、バンブルビーの無邪気な笑顔にはついつい足を進めてしまう自分に、雪菜は温かくなる胸と一緒に身体を委ねた。 「約束のキスは?」 「そういう習慣は人間にはないわよ」 「残念、じゃあこっちで我慢するよ」 バンブルビーが悪戯に目を細めたのと同時に、雪菜の頬に僅かな熱が落ちる。 翳めただけのその軽いキスを受け止めてから、さぁどうやってこの大きな"弟"を咎めようかなんて軽く口を開いたその瞬間。 まるで雪菜の言葉をかき消すかのように、ピュゥと二人の間を音が過ぎ去った。 「ンなとこでイチャついて何してんだよ?」 「いちゃついてなんか、って……ディーノ。おでかけ?何処行くの?」 「野暮な事は聞かないでくれ」 シィッ、と人間らしく人差し指を唇に当てて笑うのは、紅い髪を揺らしたディーノ。 寒さなんて感じない筈なのにジャケットまできちんと羽織っているのが、さすがというところか。 問うたのはいいものの、この格好はどう見ても外出着。 言われてみれば入り口が近かったな、と雪菜は未だ自分を腕の中に抱き込めたままのバンブルビーの腕の中で身体を再度反転させて、二人の隣を通り過ぎようとした足を止めたディーノに首を傾げてみせた。 「何?どうしたの?」 「俺には行ってらっしゃいのハグはねーの?」 「ディーノは駄目、雪菜のハグは僕だけのなんだから」 「……相変わらず冗談のわからない"弟"だな」 「頼りになる"弟"って言ってちょうだい」 軽く広げたディーノの腕に雪菜が目をぱちりと瞬かせれば、雪菜が口を開くよりも早くに背後から首もとにしゅるりと腕が絡まる。 絡まる、と言う表現よりかはがっちりと後ろからホールドされているに近いだろうその腕は勿論、バンブルビーのもの。 そんな様子にディーノは少しだけ不満そうに息を吐いたが、やがて諦めたように空を切った両手をデニムのポケットへと突っ込んだ。 「ちゃんと緊急時には連絡取れるようにしておいてね?前みたいに回線切ったりしたら……」 「わかってるっての、リョーカイ」 そのままくるりと踵を返してNESTの出入り口へ向かうディーノの背中へと呼びかければ、ヒラヒラと返事と供に片手が返される。 約束だからね、と小さくなる背中にもう一度言葉を投げてみれば、今度こそディーノの反応はない。 その代わりに、首もとに巻き付いていたバンブルビーの腕がぎゅっと閉まった事に、雪菜は首を捻った。 「ビー?今度はどしたの?」 丁度、右の肩口に顔を埋めているバンブルビーの金色の頭髪がふわりと首元をくすぐる。 心地良いような、だけどくすぐったいようなその感覚に、何故か肩口に頭を預けてしまったバンブルビーのその後頭部へと雪菜はそっと手を伸ばした。 さらりと指の上を流れる金色の髪は、本物の人間ではない筈なのに、一見してそれは雪菜のもつものと何一つ変わらない。 そしてこうして雪菜を軽く抱きしめているバンブルビーの両腕も、身体もまた、擬態と言うには精巧すぎる程だ。 と、そんな事を考えながらゆるゆると雪菜がバンブルビーの頭を撫でていると、やがてゆっくりと肩口にかかっていた重みが持ち上げられた。 「……雪菜から見た僕って、弟なの?」 「へ?あぁ、今ディーノが言ってたこと?うーん、どっちかっていうと……親しみ易さがあるし、ビーは弟に近いかな?」 ジロリ、とどこか不満そうにこちらを見つめるそのブルーの瞳を受け止めて、雪菜は思わず苦笑を漏らした。 今までバンブルビーと過ごしていた二人の関係は、言われてみれば友人関係よりかは家族関係に近いかもしれない。 加えて、目の前で軽く不機嫌そうに唇を尖らせている彼を見つめていると……母性本能に似た何かがかき立てられてしまうというもの。 "弟扱い"された事が余程不満だったのか、ご機嫌斜めなバンブルビーを宥めるようにその髪へと手を伸ばしてみれば――その手のひらはバンブルビーの髪に触れる事無く、代わりにパシリと簡単に掴まれてしまった。 「僕はね、雪菜よりずっと年上なんだよ?」 「そうね、年齢で言うならビーのほうがずっと年上だもんね」 「だから……僕は雪菜が思ってる程"弟"でも"子供"でもないんだよ?」 そう告げて、バンブルビーが雪菜を見下ろす。 不意に告げられたその言葉に、バンブルビーの真意が分からないまま"つまり?"、と先を促すように雪菜が首を傾げてみると、今度はグイと手を引き寄せられた。 「わ、っ」 「……こうしてハグをしたり、頬にキスを落としたりするのはね、ぜーんぶ、計算の上なんだよ」 「は?」 「もう少し間縮めるまで、隠していようと思ったけど、"子供"な雪菜なら勘違いしちゃうかなって思ったから」 ばらしちゃった、と事も無げに笑ったバンブルビーの声を追いかけるように視線をあげると、コツンと額に何かが触れる。 見上げた瞳は先程よりもずっと近い距離にバンブルビーのブルーの瞳を見つけて、――額が重なり合った近すぎるその距離に思わず身体を退こうとしたが、掴まれた腕は離される気配がない。 いつものバンブルビーの悪戯かと軽口を返そうとしても、普段と違って真剣な表情を瞳に宿した彼にそんな言葉は簡単に押し止められてしまった。 「頬へのキスはいつだって贈れるけれど」 「、え、ちょっ、」 一体どんな新手の冗談かと疑いたくとも、掴まれた手とは反対がわの手が雪菜の頬を軽くくすぐれば、途端にドクンと大きな音が心臓に響く。 まさか、と雪菜が胸中に驚きの色を浮かべると供に、バンブルビーの手がそっと雪菜の顎を掴めば、何も聞こえないぐらいに大きな鼓動が雪菜の耳に鳴り響き始めた。 ――今の今まで、バンブルビーに何をされても特別音を立てる事もなかったのに、それなのに。 「ココは、雪菜が僕を男として意識してくれるまで、もう少しお預け」 ツ、と器用に撫でられた唇と、聞いた事も無いバンブルビーの大人びた声色に全ての思考回路が停止してしまう。 急にカッと熱を持ち始めた頬を構う暇なんて何一つないまま、雪菜が瞳だけですぐ目の前で目を細めて笑ったバンブルビーを見上げると、彼はまるで悪戯に成功したかのように嬉しそうに微笑んで、一言。 「そろそろ僕も、意識して貰いたいなぁ?」 ディーノに盗られるのは嫌だし、なんて付け加えた一言が、今のほんの数秒の行動が冗談ではないと暗に物語る。 捕まえられていた腕がいつの間にか離されていた事も、バンブルビーとの距離が再び開いた事も。 何一つ反応出来ないで固まってしまったままの雪菜を見下ろして、くすりとバンブルビーは笑みを一つ零し―― 「じゃあ、仕事終わったらいつものところでね」 真っ赤で立ち尽くしている雪菜の目の前でひらりと手を振って、バンブルビーはその場を後にし始めた。 暫く歩いて、ようやく背後で雪菜の慌てる声が聞こえてきたけれど、振り返るのはぐっと堪え。 今までの距離感でも急ぐ事はなかった、だけど一瞬だけ垣間見えたディーノのあの仕草には――少しだけ身の危険を感じてしまった。 「あーあ、僕だけだと思ったのになぁ」 ずっと傍にいて、こうして雪菜の傍に違和感なく居れる所までやってきた。 このままゆっくり、なんて思っていたが、まさかの登場人物に考えを改め直さなくては、とバンブルビーは大きく伸びを一つしてから口元に笑みを浮かべた。 これで、雪菜が自分を"弟"から"男"へと意識し始めるのはまず、間違いない。 さて、何からはじめよう? **** "空飛ぶホウキ"の柚香様こと、大好きなゆずちょるへ捧ぐビー夢です(・∀・) うぁああ、遅くなってごめんなさい、しかも甘くな……^qq^ ビーはきっとこういう腹黒さをかね揃えてると思います、だけど笑顔は無邪気でエンジェル\(^o^)/ それに騙される女の子多数、だけど本望\(^o^)/な意味不明なノリで仕上げてみました…! 遅くなって本当に申し訳ない、だけどリクエストありがとうございましたヾ(´∀`*)ノ >>back |