薄桜鬼-現代- | ナノ
 





Somebody's me -8-





賑やかな昼下がりはあっという間に過ぎていき、すでに綺麗に洗われた鍋や食器は今はもとのキッチンに並べられている。
すっかりと太陽が沈んで少しした後に、永倉と近藤大がきな欠伸をして客間から出てきた。
出てくるや否や、夕食の時間が、と家を後にした近藤を慌ただしく見送った後に、残された彼等もそろそろお開きという事になり。
土方は部屋の片隅に置いていた真っ黒のジャケットに手を伸ばしながら、ジーンズのポケットから車のキーを取り出した。

「斉藤は、家の方向一緒だからな、俺が送ってくから乗ってけ。」
「ええー、俺も乗っけてってくれよぉ。」
「お前は俺と同じ方向だろうがっ。」

くぁ、っともう一度大きな欠伸を漏らしながら、永倉は藤堂の頭をがしっと掴み力強く撫でる蹴る。
それに藤堂は不満気に頬を膨らませたが、暫くして、しゃーねーなぁ、と笑う様子を見てると、相変わらずの仲の良さが垣間見れ。
くすくすとその様子に笑みを零しながら、雪菜は原田に上着を手渡すと、車だから、と言って彼はそれに手を通さずに手に受け取った。

「お前も、ちゃんと戸締まりするんだぞ。」
「はいはい。」

わかってますよ、と言いながら雪菜は目についた原田の髪についていたゴミに手を伸ばす。
手に取れた小さな埃を、宙でふっと吹き払うと、今度は彼の大きな掌が雪菜の頭を包みこみ、雪菜は頬を緩めた。

「あれ、雪菜ちゃん、左之さんとこ泊まりにいかないの?」
「……何言ってんの。そんな事したら、千鶴一人になっちゃうでしょ。」

ね、と同意を求めるように彼の隣にすわる千鶴に視線をやると、案の定、千鶴はどこか少し落ち着き無く視線を漂わせている。
その頬が少し赤いのは、気のせいではない。
わかりやすいその動揺に、雪菜は小首を傾げると、ソファに座っていた沖田もまたにっこりと微笑み雪菜と同じ角度に首を傾げた。

「大丈夫だよ、今夜は僕がここに泊まるから。」
「は?」
「別に、雪菜ちゃん達だけじゃないしね?思い出したの。」

さらりと告げ、沖田は隣で斉藤に白いストールを手渡していた千鶴の肩にぽん、と手を置く。
その動作に、先ほどとは比べ物にならない程、瞬時に真っ赤に頬を染め上げた千鶴の姿。

「え、ええええ…っ!?」
「やだなぁ、そんな驚かなくても。」

思わず大きな声をあげた雪菜と同時に、そのすぐ上から、まじかよ、という原田の声が耳に届いた。
藤堂や永倉に至っては、言葉を発する事も出来ないようで、口をただただあんぐりと開けたままその場に立ち尽くしている。

「ぷ、何みんな変な顔してるのさ。」

周りの唖然とした様子に、さらりと言ってのける彼に、千鶴は穴があるなら入ってしまいたい、と言わんばかりに体を縮こませていが、
それを気にも留めず、沖田はけらけらと楽しそうなな笑い声を上げた。

「総司、物事には言うべき順序というものがあるだろう。」
「おっかしいな、みんな知ってたと思ってたんだけどなぁ。」

悪戯が成功したような表情を顔に宿しながらまだ笑いを漏らし続けている沖田の隣で、斉藤は眉間に皺を刻みながら溜息を漏らした。
その少し後ろの土方も、呆れた表情を見ると、彼もまた、知っていたような顔をしている。

「え、嘘、一君知ってたの?」
「ああ。」

見ていてわからないのか、と言わんばかりに彼は手にしていたストールを首に巻き始める。
今日は馳走になった、等と少し古い言葉をかける斉藤をまじまじと見つめて、雪菜は肩をがっくりと落とした。
途中で新選組から離脱してしまったが故、最後まで見届ける事はできなかったとはいえ。
そんな事になっていたとは、露程にも思わなかった。

「やだなぁ、僕らだって左之さん達みたいな感動の再会を見せつけたらよかった。ね、千鶴?」

ちゅっと彼女のこめかみに口づけると、千鶴はこの状況に耐えられなくなったのか両手で顔を隠してしまった。
その辺にしとけ、ともう一度斉藤が嗜めると、土方が、行くぞ、とまだ立ち尽くしていた永倉と藤堂を一発ずつ叩いてから玄関へと向かって行く。
これも…相変わらずだ、と笑いをかみ殺しながら、雪菜は土方を追い抜いて玄関のドアを開いた。

「じゃあな。今日は悪かったな。」
「いえいえ、久しぶりに楽しかったです。」
「雪菜、また学校でな!」

外でぶんぶんと大きく手を振る藤堂に、雪菜もひらひらと手を振り返す。
ガチャガチャと家の前にとめておいた自転車の後ろに飛び乗りながら、急発進した永倉に文句を言いながらも、藤堂達の笑い声が通りに響き渡り、
うるせぇ、っと更に大声で土方がその後ろ姿に声をかけると、斉藤とともに車を停めてある反対方向へと歩き出した。
その様子を見送った後、ドアをぱたりと閉めながら、いつもの癖でチェーンをかけようとしたその手に重なった、大きな手。

「ほら、準備してこい。」
「え、」
「なんだ、来ないのか?」

顔をあげると、雪菜に背後から覆いかぶさるように立つ原田の姿。
相変わらず背の高い彼は、簡単に雪菜のつむじに唇を寄せた。

「で、でも先生の家に生徒が泊まるって…」
「俺の家に、俺の女が泊まる事の何が悪いんだ?」

ものは考えようだ、などと訳の分からない事を言いながらにぃっと笑う原田に、雪菜はちりっと頬が熱くなるのを感じた。
腕を振りほどきながら、彼を振り返ると、彼の背後に千鶴と、彼女の腰に手を回した沖田の姿。

「お姉ちゃん、あの、私は、その…沖田さんがいるから大丈夫。」
「そ、そう?」

そんな真っ赤な顔で言われると、雪菜までどこか照れくさくなってしまう。
いろいろ聞きたい事はあるが、まぁ、今夜じゃなくてもこれから聞ける時間はたくさんある。

「じゃ、じゃあ…明日の夕方までには戻ってくるから。」

こくり、と頷いた千鶴とその隣で満足そうに笑う沖田に、複雑な笑顔を浮かべたまま雪菜は準備をするべく自室へと向かった。





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短い…
千鶴ちゃんを誰とくっつけようかと思惑していたら。
沖田さんがかっぱらっていってしまいました、ごめんなさい。


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