![]() Somebody's me -7- 「んじゃぁ、買い出しもあるし、雪菜は俺の車のってけ。」 「えー、んじゃあ俺も乗っけてってくれよぅ。」 「お前は、新八のチャリの後ろにでも乗ってろ、邪魔すんな。」 自宅に連絡を取ると、沖田からはちゃっかり”夕飯は鍋がいい”というリクエストを受け、 雪菜の提案もあり一同そろって##NAME2##家へと場所を移す事になった。 「よっし、んじゃ買い出し行くか。」 エンジンをかける原田の助手席に滑り込み、ちらりと原田の顔を見上げた。 未だに、彼が前世の記憶があるという事、そして自分を待っていたという事が、不思議で仕方が無い。 その視線に気付いたのか、原田はサイドブレーキを落としながら振り返った。 「どした?」 「う、ううん。」 「なーんだ、緊張してんのか?」 悪戯に笑う原田に、ふるふると勢い良く首を振り、押し黙ってしまう。 少しばかり紅い頬の色が退くように、と窓からの景色に気を侍らせた。 「ねぇ、左之さんはいつ思い出したの?」 「…、高校の頃にな。たまたま新八が転校してきてよ。何の前触れも無かったんだが、いきなり全部思い出した。 丁度、新八も同じ時に思い出したみてぇでさ。」 「へぇ…じゃあ、新八ちゃんとは、今世でも腐れ縁なんだ。今も同じ学校で先生やってるし。」 良いのか悪いのか、と笑いながら原田はハンドルをきりながら笑った。 運転席に置いてあったサングラスを当たり前のようにかけ、さっそうと車を走らせる様子をちらり、と見やる。 整った顔立ちは前世から何一つ変わっておらず、現に、千姫の話では相当女子からモテているという事実をふと思い出した。 「それから…、ずっと待ってたの?」 「まぁな。―――不思議なもんだよな、今まで恋愛ゴトなんて興味なかったのに。だけどな、一度思い出しちまったらもう、お前以外考えられなくなってよ。 今世でも絶対に会えるって訳じゃぁねぇのに。あの時は見つけてすらねぇのに、…現金なもんだよ。」 人ごとのようにくすくすと原田は笑い、雪菜の髪の毛をくしゃっと撫で付けた。 まだ内心どきどきしている雪菜とは裏腹に、原田の余裕のある対応に雪菜は少し不満そうに顔を揺する。 「それで…、とりあえず、歴史の資料とかから、お前の事を探し出してやろうって思ってよ。てわけで、今こうして歴史の先生してるわけなんだが。 やーっと見つけたってのに、当の本人はすっかり忘れていやがるし。」 「ご、ごめんなさい…。」 「ま、原田先生って呼ばれるのも、なかなか新鮮だったけどよ。」 にんまりと笑いながら、原田は左手で器用に雪菜の手を絡めとり、片手で運転を続ける。 前世程の豆はないにしろ、その無骨な手を、雪菜はゆっくりと見下ろした。 当たり前のように手を繋いで歩いていた自分たちを懐かしむように、その感覚を確かめる。 そして、腕についてる彼の腕時計や、自分の指についてるファッションリングが視界に入り、雪菜はそっと目を細めた。 見慣れないアクセサリーに、自分の知らない彼の人生を感じる。 「ねぇ。左之さん。」 「ん?」 「私で、いいのかな。」 「……どうした?」 雪菜の方こそ見やらなかったものの、原田は絡めていた手にぎゅっと力を入れる。 まるで、そっと手を解こうとした雪菜の行為を阻止するかのように。 「あの、ね。前世の記憶があるとはいえ…、今世でも私を相手にしないといけないってわけじゃ――――」 「お前は、俺が他の女と居ていいって、本気でそう思ってるのか?」 信号が赤になったのを確認し、減速すると、原田はハンドルにもたれかかりながら雪菜を見つめた。 聞き慣れた真剣味を帯びた声色。 その声色が彼のどういう心情を物語っているのかは、雪菜自身よく知っている。 「……、嫌。」 「今言ったよな。お前以外考えられない、って。それは、迷惑だったか?」 「……、ううん。」 「なら、観念して今世も俺の傍にいろ。」 ぐっと手を引き寄せられ、軽いキスが贈られる。 サングラス越しにうっすら見える、彼の真剣な眼差しに、どくん、と雪菜の心臓が大きな音を立てた。 「やっと見つけたんだ、嫌って言っても簡単に手放すか。」 低く囁かれるその甘い声に、雪菜は堪えきれなくなり視線を外す。 可笑しそうに、その様子に原田がくつくつと喉から笑みを漏らす音が聞こえる。 鏡で確認しなくても、自分の顔が真っ赤に染まってる事が判るのが悔しくて、雪菜は唇を小さく尖らせた。 「その照れ隠しの反応、懐かしいな。相変わらず、だな。」 愛でるように、繋いでいた手を外し頬を撫で。 その手に頬を少し擦り付けるように首を揺すると、原田がふっと優しく微笑んだ。 そのまま、車をバックにして器用に駐車させると、キーを回してエンジンを切る。 「時代は変わっちまったな。昔みたいに、戦だ、剣だ、なんて今じゃ物騒なもんって取られちまうし。」 「でも、あの時私たちが信じた新選組は、無駄なんかじゃない、よね。」 「あぁ、そうだな。」 脳裏に過る、屯所の姿。 毎日剣を振るい、己を鍛え、そして京の街を守ってきた、懐かしい時代。 「みんな覚えてるなんて、本当に…、腐れ縁も甚だしいわね。」 「そうだよなぁ。どういう訳か、皆覚えてるし、ここに集まってきてる。お前が多分最後じゃねぇか?」 「幕末の動乱を駆け抜けた分、きっと神様が今世ではゆっくり平和に過ごせって?」 かもな、と原田は口角を上げて笑い、ドアを開けた。 相変わらず長身の彼の隣に立つと、彼が慣れた様子で手を差し伸べてくる。 その手を、そっと握り、そして思い出したかのようにぱっと手を離した。 「あ、そっか。先生と生徒、だからこういう事、外ではしちゃ…」 「今日ぐらい、良いだろ。」 引き戻したその手をぐっと引き寄せ、力強く自分の手に絡めとりながら、原田はそっと腰を折る。 先ほど撫でられた頬とは反対側の頬を、軽く撫で上げ。 「悪いな。俺、今すっげぇ浮かれてんだぜ。」 「…、さっそく土方さんに怒られちゃうわ。」 悪戯に笑いながら告げる原田に、雪菜はくすりと笑って重ねられるその唇を素直に受け入れた。 **** 左之さんだって、内心うっはうっはだったりするんです← 次は鍋ー鍋鍋ー? >>back |