薄桜鬼-現代- | ナノ
 





島田君の弁当指導





「島田君!! プリンは主食じゃないの。わかる?」

今私は、先日行なった食生活調査で問題ありな回答を記入していた一年生の"島田 魁"君を指導している真っ最中。
何故なら生徒の健康管理も養護教諭である私の大事な仕事だからだ。


「でも、プリンは美味いっすから」

「だから、そういう事を言ってるんじゃなくてね・・・はぁ・・・」


溜め息を吐きながら視線を移したのは、私の手に握られているアンケート用紙。
書かれているのは島田君の食事内容なんだけど、ズバ抜けて偏食だった。
それは、その立派な体格からは考えられない・・・


「・・・何で朝、昼、夜と三食プリンなの?」

「・・・・・・美味いっすから」

「もぉぅ!! だから、プリンは主食じゃなくてデザートなのっ!!」

「いや、それ注意するとこ間違ってるぜ? 春菜センセ」

島田君と私の会話に入ったツッコミ。
ツッコミ担当の聞きなれた声に体ごと振り返れば、『寝不足だから寝かせろ』と先程までベッドで眠っていた原田君の姿があった。


「は、原田君!! 起きてたの!? っていうより聞いてたの!?」


いきなりの登場に驚いた私の問いかけに『あぁ』と答え近付いて来る原田君を目で追えば、腰を下ろしたのは島田君の横に余っていた椅子。


「春菜センセェはよぉ、栄養偏るとか・・・そんなの心配してんじゃねぇか?」


そのまま島田君へと視線を合わせた原田君が呟いたのは、さっきのデザート発言に対するフォローだった。


「でもコレだけは譲れないっすから」

「・・・島田君」

その気持ちは分からなくもない。私もプリン好きだし、一人の時は夕飯をお菓子で済ませちゃう事だってある。
でも、こう見えて一教師。
大事な生徒の健康管理の為に心を鬼にして指導しなければいけない。
だけど・・・

どうすれば分かってくれるだろうかと、何度目になるか分からない溜め息を吐き下を向いたそんな時、私の頭上でクスッと笑い声がした。
視線を上げれば、困り果てた私を見て楽しんでいるような原田君。
たまに見せるいじわるな顔だ。
そんな顔をしたかと思った矢先、原田君は島田君へある提案をした。


「なぁ、島田。お前、弁当作ってきたらどうだ? それ食った後でプリンでも何でも好きなもん食えば誰も文句言わねぇだろ?」


島田君の肩をポンポンと軽く叩きながら、私にも『だろ?』と問いかける原田君。

こんな事言ったら失礼だけど、島田君は見かけと違って家庭科部に所属するくらいの料理好きで料理上手。
お弁当を作るなんて朝飯前だろう。
でも、そのことが災いしてかプリンばっかり作っているのが現状。
お弁当一つでこの問題が解決出来るなら、島田君にとっても私にとっても万々歳だ。


「それ良い考え!! 島田君、今度からお弁当も持って来なさい。やっぱり、プリンはデザートなんだから、お弁当の後じゃなきゃ!!」

「だから、それ、何かちげぇよ」

「分かりました。弁当を持って来れば先生もプリンを認めてくれるんですね?」


原田君が何か言ってるけれど、そんな事は気にしない。
島田君もその気になっているのだからこれで万事解決?
今度からは、お弁当を作ってくるという話で島田君は保健室を後にした。


「じゃ、俺もそろそろ教室もどるけど・・・今週末あけとけよ?」

「え?」

「さっきのご褒美」

「ご褒美・・・って?」

「俺のお手柄だろ? だから、ちゃんとご褒美貰わなきゃな」


ご褒美前提の助け舟。
さっきのいじわるな顔の意味はコレだったんだ・・・。
教室へ戻るため保健室のドアへと向かう後姿を見ていると、『あっ』と小さく声がして何か思い出したように私の傍まで戻ってきた。

不思議そうに見つめる私の腕を引き、原田君の唇が髪に触れる。


「もちろん・・・朝までな?」


耳元で囁いた後、額に軽くキスを落とし、彼はそのまま保健室を出て行った。
顔を真っ赤に染め固まったままの私を残して・・・。





―――――――――――――




「島田君、ちゃんとお弁当持って来た?」

「はい。プリンを食べる為なら、いくらでも作ってみせますよ!!」

「そりゃ、良い心がけだな」


昨日の今日で、ちゃんと行動に移すところは流石、島田君って感じがする。
偏食さえなければ、指導する事なんて一つもない真面目な生徒だ。


「原田君も、ブロッコリー残しちゃダメだよ?」

「・・・・・・」


今日の原田君のお弁当は島田君が居るから買ってきたものだけど、その中にブロッコリーが入っていたのを私は見逃さない。
先生らしく注意してみるけれど、だんまりを決め込まれてしまった。

永倉君が居たなら、この間のように悪態の一つでもついてたのかな?
今日は、その永倉君はいない。
どうやら最近彼女が出来て一緒に食べているらしい。
誘った原田君は『薄情な奴だ』なんて言ってるけど、生徒が幸せになってくれるのは正直嬉しい。
それ以外にも”彼氏の友達が”ってのもあるのかも・・・。
そんな事を考えながら、今度はその彼女も一緒に皆でお昼ご飯も良いかもしれないと思った。
だって、大勢で食べるご飯はきっと美味しいはずだから。


「さぁ、じゃあ食べよっか」

「そうですね」

「で、お前どんな弁当作って来たんだよ?」


島田君の腕前に注目とばかりに、その手元にあるお弁当箱に視線を集中させる私と原田君。
だけど、次の瞬間・・・


「ねぇ、島田君・・・コレ何?」

「お弁当ですが、何か?」

「弁当は分かってんだよ・・・」

「この中身は何なの?」

「見ての通り”タコさん”ですが、何か問題ありましたか?」


蓋が開けられたお弁当箱。
普通であれば、色とりどりとは行かなくても白いご飯が見えてもおかしくないはず。
だけど島田君のお弁当箱は真っ赤に染められていた。

そう、男子が使う大き目のお弁当箱に、まるで通勤ラッシュのようにタコさんウインナーがギッシリと詰められていた。


「問題在り過ぎて私どうしたらいいか分からない・・・」

「でも美味いっすから。タコさん」

「だから・・・もぉ〜!!!」


『恥ずかしがったり、怒ったりで赤くなるのはコイツそっくりだな』なんて言いながらタコさんウインナーをつまむ原田君。
そんな彼を横目に、島田君のお弁当指導は振り出しに戻って行くのだった。



‐end-

Written by オジサン

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何かさらに頂いちゃいましたヾ(´∀`*)ノ
甘やかされてる柑咲です、はい、今度は島田君のプリン事情……違う、弁当指導でした!
島田さんが可愛すぎだろう、プリン大好きだとか!!
ついでに原田君がブロッコリーをクリアできたのかが気になるところ。
可愛いな、高校生のみんな……たこさんウィンナーを手作りしてる島田さんに萌え萌え。
オジサン、毎度ありがとうございました(*´д`*)



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