薄桜鬼-現代- | ナノ
 






Somebody's me -10-





不意に、ぎゅっと力強く引き寄せられる感覚に、雪菜は目をうっすらと開けた。
同時に、こめかみに落とされるそれに気付くと、笑みを漏らす。

「good morning。」
「ん、……。もう朝……?」
「正確には昼、だな。もう12時前だ。」

くぁっと欠伸を漏らす雪菜に、原田はもう一度こめかみに唇を寄せ。
抱き枕の様に自分を抱えている原田に、雪菜もくすり笑い声を上げた。
彼の腕の中で大きく手をあげて伸びをして、そしておろす腕を彼の首にまきつけ。

「おはよ、左之さん。」

にんまりと漏れ出るその笑みに、原田もまた嬉しそうな笑みを返した。
ちゅ、と雪菜から軽いキスを唇に送れば、軽く細められる琥珀色のその瞳。
くしゃりと腕枕をしていたその手で雪菜の頭を後ろから撫で付けながら、原田はその腕を引き抜き。
ごそりと体をベッドにおこした。
下着さえつけてるものの、裸に近いその姿を現せば、ブランケットが自然と引きずられて自分の上半身も露になる。
あわててそれを引き寄せて体を隠してみれば、くすりと笑いながら欠伸を漏らす原田の声が耳に入った。

「どうした、寒いか?」
「さ、むくはない、けど。」
「なんだ、恥ずかしい、とか?」

コツン、と複雑そうに自分を見上げるその顔を軽く小突いてやれば、雪菜は唇を尖らせて頬を染める。
起きる場所さえ異なるものの、その懐かしい彼女の動作に自然と笑みが漏れてしまう。

「…、昨日、気付かなかったんだけど。」
「ん?」
「傷……もしかして、また、」

つ、っと白いブランケットから見えるその痕に指を馳せながら、怪訝そうに原田を見上げてみせれば。
彼は笑いながら違う違う、と軽く手をふってそれを否定し。

「これな。生まれた時からあるみてぇでよ。今となっちゃ、理由が分かるけど。」

大きなその傷跡に、苦笑を漏らす原田の腹をもう一度撫で。
鍛えているのだろうか、少しばかり硬いその腹筋が反射的にぴくりと揺れた。

「朝から誘うなよ。」

悪戯に笑う彼に、そんな事無いと目で訴えてみれば、彼はそれを口角をあげて意地悪に笑ってみせ。
サイドテーブルの目覚まし時計の隣に置かれていた煙草の箱を手に取った。
何も言わずにベッドから抜け出した原田を止める事もなく、雪菜はころりと寝返りを打って見慣れない天井を視界に入れながら。
ぼんやりと、今になって昨日の出来事を思い返した。
どうして前世の事を思い出したのか、と言われても説明なんて出来ずお手上げ状態。
突然思い出した、という何とも説得に欠ける言葉しか思い浮かばない。
それでも、記憶を辿って行けば、昨日までは確かになかった”昔の記憶”が、鮮やかに浮かび上がってきては、新しい場所を見つけた様に収まって行く。
自分が、誰で、何をしていたか。

「新選組……、か。」

ぽつりと呟いた言葉は、原田の窓を開ける音に丁度消され。
カチっとライターの火をつける音がしたかと思えば、少しだけ肌寒い空気と、煙草の煙の香りが雪菜の鼻をくすぐった。
その後ろ姿を見つめてみれば、今も鍛えているのだろうか、相変わらずの引き締まったその姿。
自分を見つける為に、歴史を調べ漁っていたと言っていた彼の言葉を思い出し、込み上げる何とも言えない感情に奥歯を噛み締めた。
一転して、全てが変わってしまった、もちろん、良い意味でなのだが。

「何だ、まじまじ見て。」
「へ?う、ううん。」

じっと見ていたのに気付かれたのだろうか、原田が肩越しに雪菜を振り返った。
不意に視線があってしまったせいで、どことなく気恥ずかしさから視線をそらしてみれば、ふぅっと煙を吐く音が聞こえてくる。

「見慣れてるっちゃ、見慣れてるだろ?まあ、あんときは褌だったけどな。」

今考えると笑えるな、と原田はくつくつと笑いながら煙草を灰皿に押し付けた。
そのまま窓を閉めながら、もう一度ベッドサイドへと腰をかけ。
体を起こしてブランケットにくるまる雪菜のおでこに唇を送った。

「昼、どうする?」
「そこら辺で、ランチでもするか。」
「この辺にあるの?カフェ?」
「あんま、洒落た店は期待すんなよ。」

そう言いながらも、がっしりと両腕で小さくなる雪菜を抱きしめ始めた原田に、雪菜は苦笑を漏らし。
軽く体をみじろぎさせてみれば、より一層強くなる彼の腕。

「左之さん?」
「ん?」
「ん、じゃないでしょ……、着替えてお化粧しなきゃ。」

こてん、と彼の太い二の腕に頭を預けてみれば、斜めに移る原田の顔。
それに合わせる様に彼もまた、顔を斜めに傾け。

「化粧するのか?」
「ちょっとだけ、ね。やめて、違いが分からないとか言わないでよ?」
「まだ高校生だろ?」

ちゅ、とおでこに落とされるその唇とは裏腹の彼の言葉に、雪菜はフンと鼻を鳴らしてみせ。

「子供扱い?」

不満気に見つめるその様子に、原田は思わず吹き出してしまい、それが更に雪菜の眉間に皺を刻んだ。
今にも自分に噛み付いてこんばかりの勢いの彼女に、昨日までの”原田先生”に対する敬意はどこへいったのか。

「何よ。」
「昔は、女扱いするなって散々言ってたな、って思ってよ。」
「……、子供扱いして欲しいとも言った覚えはないわ。」
「子供扱いなんてしてねぇよ。もうずっと、俺のオンナ扱いしてるだろ?」

再度落とされたおでこへの熱に、雪菜は口を閉じて顔を隠す様に彼の首元へと顔を埋めた。
こういう恥ずかしい台詞を簡単に言ってしまうのも、相変わらずだ。

「それに、お前は化粧なんてしなくても、昔から相変わらず可愛いって言ってんだよ。」

うるさい、と小さく漏らしてみれば、相変わらずのその笑い声。
状況は一転してしまったが、彼は何一つ変わっていない。
同じ反応を逐一感じるあたり、大方自分も何一つ変わっていないのだろう。

「ほら、昼飯にいこうぜ。」
「、うん。」

宥める様にぽんぽんと背中を叩いてやれば、暫くして耳まで真っ赤にした雪菜がようやく顔をあげ。
原田からのキスを受け入れてから、雪菜は投げ出された下着にゆっくりと手を伸ばした。




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左之さんの腹の傷は生まれつきでこじつけましたw
おいらも、お腹ではないけど、生まれながらの傷跡が。
はっ、これはもしや前世がおいらにもあるのか…!?←
こんなおいらの話なんてどうでもいいっす、すんませw

short storyの二人と合わせて読んでて頂ければと思います<女扱い云々


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