![]() ※擬人化・ジャズ守護者設定。 未開feelings 「……ねぇ、バリケード」 《何だ》 「いや、何だじゃなくて…何か、用?」 《あったら口にしてる。馬鹿かお前》 「ば…」 その言われように思わず怒りを露わにしたが、それもすぐ鎮静してしまった。 雪菜は眉をハの字にして、どうしたものかと戸惑う。 現在、自身の膝には赤い目を持つ男性が頭を預けて横たわっているのだ。 ヒューマノイドに姿を変えた、バリケードが。 学校で出された宿題を持参し、NEST基地内の食堂で黙々と頑張っていたのがほんの十数分前。 その間にフラリとやって来たバリケードが、何の前触れもなく突然膝枕の体勢をとってきた。 また嫌がらせなりしてくるのかと思ったが、特に何を言うでもするでもなく、ただその状態のままに落ち着き続けている。 幼稚な事からそこそこ危険な事まで、日頃から何かとバリケードの被害に遭っているだけに、今のこの静かすぎる現状が逆に不気味に思えて仕方ない。 見る限り、両の赤目はいつもの如く加虐心を反映させているように妖しく光っているというのに。 仕舞いには、やはり宿題は家ですべきだったか、この団体用の大型テーブルと長椅子のスペースに座ってしまった事がまずかったのか、なんて事を考え始めてしまう始末だ。 《雪菜》 「!」 そこで不意に、バリケードの片手が上がって指先を雪菜の頬に触れさせてきた。 ビクッと両肩が跳ね、いよいよ何かしてくるのかと緊張の面持ちを浮かべれば、バリケードはくつくつと喉を鳴らす。 《どうした?ただ触っただけだってのに、そんな期待するような目をして》 「きっ、期た…!?」 《違うってか?》 「あっ、当たり前でしょ!そっちがいつも変な事してくるから、警戒して身構えただけ!」 《ほう…》 あらぬ事を言われ、顔を真っ赤にしながら怒鳴る雪菜だが、バリケードはその反抗的な態度さえ愉快気に受け取っている。 起き上がる気配もなく、ただ膝に頭を定着させたまま。 ああ恐らく、これも趣向を少し変えただけで、いつものように自分の反応を見て楽しんでいるだけなんだろうなと悟れた。 ヒューマノイドでいる今のバリケードならば、頑張れば油断させて床に落とす事も出来そうではある。 だがその後の報復を考えれば明らかに割に合わない仕返しなので、雪菜はグッと堪えてテーブルに広げた教材に集中する事にした。 《おい…》 「………」 《おい、黙るな虫ケラ》 「………」 バリケードが明らかにつまらないと言った顔で呼びかけてくるが、返事はしてやらない。 膝から退かない様子からして、一言でも返事をしたらまた彼の遊び相手をさせられてしまうも同然なのだから。 現在、広大な食堂内にいるのは雪菜とバリケードのみ。 静かで人気の無い空間には、雪菜によって奏でられるシャープペンシルが紙面を走る音と、教科書が時々捲られる音がより鮮明に響いている。 《……》 「……」 《……》 「………ひぅっ!?」 バリケードの嫌味な呼びかけが止まってしばらくした時、細い何かがつーっと背中を伝った。 その感覚にビクリとして鳥肌が立ち、思わず小さく悲鳴を上げてしまう。 反動で、ペンが手から離れて紙面に転がった。 「〜〜っ、バリケードォ!!」 《返事する気になったか?》 「そういう事じゃない!」 今のは感触は、おそらくバリケードの指だろう。 完全に無視していたが故に、そっと背中にバリケードの手が回された事に気付けなかった。 宿題の手まで止められた事で、とうとう雪菜は不機嫌が表に出てしまう。 バリケードの肩を掴んで力任せに引っ張り起こし、膝から強制排除して教材を片づけ始めた。 《何だ、癇癪でも起こしたか》 「違います!ここにいると宿題が終わらないから移動するの」 《へェ》 付いて来ないで下さいね、と一応念押しはするが、今のニヤニヤ顔を見る限りは付いて来られるだろう。 雪菜は怒気を吐き出すようにため息をつき、重ね合わせた教材をトンとテーブルの上で叩き揃えた。 さてどこに逃げようかと思案しながら立ち上がったが、直後にバリケードに腕を引かれる。 彼の方へ倒れ込むようにして椅子に逆戻りにされ、背中から抱き込まれるようにして拘束されてしまった。 「っ、バリケード…!」 《そう邪見にするな、俺とのやりとりは嫌いじゃないだろう?》 「ふざけないで!どう受け取ったらそんな良好な関係に見えるんですか!」 《そりゃ、お前が俺を嫌ってないからだな》 「何なのそれ、どこからそんな自信…」 《じゃあ、本気で俺を疎ましいと思ってんなら、何故何もしようとしねェんだ?》 「…っ!?」 突然耳元で囁くように問われ、雪菜はゾクリときて再び鳥肌が立った。 「な、何って…」 《本気で俺をどうにかしたいと思うなら、それこそ簡単に片付く話だろう。俺との接触を断つなり、あの守護者の将校に頼むなり…メガトロン様に直訴するなり、な》 「――!!」 《確実なのはメガトロン様だ。ペットと称して特別可愛がってるお前からの言葉なら、直々に動いてくれるはずだろ?まぁ、そうなった場合俺がどんな末路を辿るかは想像に難くないわけだが》 「…っ」 そこまで言ってやれば、雪菜は動揺して身を固くする。 バリケードはその単純さを鼻で笑い、更に追いつめるようにまた耳元で口を開いた。 《なのに、お前は他人に多少の愚痴は零しても、本気で俺をどうにかしようとした事は一度も無かったよな?》 「そ、れは…」 《それは、大半はお前の、馬鹿としか言いようがねェ性格のせいだろうな。だが、本当のところはそうじゃねェはずだろ?》 「な、何…」 《最初に言ったろ、お前が俺を嫌ってないからだ。いや…この場合は、嫌ってはいないってとこか?》 そこまで紡がれ、雪菜はドクリと心臓が脈打った。 バリケードが言わんとしている事がどういう意味を差すのか、分かったような気がした。 だけど唐突過ぎて、それを今の今で認知するには…、いや許容さえできる心境じゃない。 これもいつもの、バリケードの悪ふざけだと思えばそれが一番良いのに、何故この時ばかりはやけに真実味を感じさせられるのだろうか。 ドキンドキンと、こうしてる内にも心臓は勝手に大きい脈動を刻んでしまっている。 《セクハラもその辺にしろ》 この状況から逃げ出す手段が思い浮かばず、生理的な涙が滲み出て来てしまいそうなところまできた時。 まさにギリギリのところで、幸いにも救い主が現れてくれた。 《よォ守護者殿。任務ご苦労様ってか?》 《やめろ気持ち悪ィ。雪菜、来い》 ジャズによってバリケードの拘束から解放され、雪菜は心から安堵の息をついた。 そんな彼女の様子に、ジャズはギロリとバリケードを睨み据える。 《あんまりコイツに妙な事するなら、俺もいい加減黙ってねェからな》 《そりゃ怖い、せいぜい背後には気をつけねーとな》 あくまで愉快気に返してくるバリケード。 ジャズは舌打ちし、雪菜を庇うようにこの場から去ろうと歩き出す。 《雪菜》 「!」 距離が離れていく中、不意にバリケードに呼ばれて振り向いた。 不敵で意地悪気な笑みはそのままに、「また今度な」とその口から紡がれる。 雪菜は一瞬眉をしかめたが、それについては何も返さず、ジャズの歩調に合わせて食堂を出て行った。 END 柑咲春菜様へ捧げます。 リクエスト有難うございました☆ これからもどうぞ宜しくお願い致します(*^_^*) H23.8.14 著。 **** 『雪の結晶』恵理奈様より頂いてきました! 相互記念という事で、バリ兄が見たい!と泣き喚いて……強奪してきました。 しかもきちんとジャズまで……ジャズが出てる……!(じゅるり) 頂いた瞬間の狂喜乱舞具合、半端なかったです、ありがとうございます。 あの、個人的にドツボがジャズがバリ兄さんにギロリと睨みつけるところでして……ごにょごにょ。 目にした瞬間脳内の回路がショートしました、か、っこ、い、い…! ジャズのギロリにもときめき、そして余裕のあるバリ兄さんがもうたまりません(*´ェ`*) 本当に美味しいお話をありがとうございます。 これからも何卒よりしくお願いしますヽ(*´∀`)ノ 15/08/11 柑咲春菜 >>back |