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Nobody but u.





「ただーいまー」

誰も居ない真っ暗な部屋に向かって口を開くと、雪菜は慣れた手付きで鞄をリビングのソファに放り投げた。
そのままベッドルームに直行して、ボスリと音をたてて身体を落とす。

「何か……疲れた」

スーツが皺になっちゃう、あぁメイクも落とさないと、と。
いろいろな面倒事が脳裏を翳める中、身体をベッドへと沈み込ませながら、雪菜は瞳を閉じた。

卒業してから――13年。
卒業後間もなくして去ったイギリスという土地。



「嫌だ、私もシリウスと行くっ!」
「雪菜、駄目だ」

今でも驚く程に鮮明に覚えているあの日の出来事。
卒業式を終え、新しい社会生活に胸を高鳴らせる間も無く告げられた突然の恋人――シリウスからの別れ。

「嫌っ!」
「雪菜!」

どれだけ喚いても、どれだけ瞳から涙を零しても、目の前のグレーの瞳は苦しそうに歪められるだけ。
遂に縋る様に雪菜がシリウスに伸ばした手も……彼は握り返してくれなかった。

「頼むから、……お前だけは安全な所に行っててくれ」
「どうしても?どうしても行かないといけないの?」
「……あぁ」

本当はシリウスの拳が強く握り締められている事も、雪菜は気がついていた。
この決断をするのがどれ程彼を……雪菜を、互いを苦しめる事になるかなんて、シリウスが分かっていない筈が無い。

「絶対、迎えに行くから」
「嘘っ、そんなの、」
「俺がお前に嘘ついた事あったか?」

時間だ、と腕時計を見て呟いたシリウスの手が、最期にゆるりと雪菜の頬に翳された。
大好きな彼の手、その大きな手のひら、そして鼻にかかる微量の煙草の香り。
一昨日も、昨日も、今日も、明日も、明後日も。
ずっと隣に居ると思っていたシリウスという存在を失うなんて、と雪菜はゆらりと近づいたシリウスのローブをぎゅっと握り締めた。
――行かないで、と。

「しりう、」
「全部終わったら、お前を絶対に迎えに行くから。それまで、」

一切魔法界に関わるな、強いてはイギリスと、と。
そう告げながら唇に落とされた僅かな微熱の感覚を惜しむ余裕なんて全くないままに。

「愛してる、ずっと。離れていても、ずっとだ」

永遠の別れとも取れる言葉と、そしてパチンというこの場に似つかわしくない軽快な音が同時に響く。
次に雪菜が瞳を開けた時には――そこには誰も居なかった。



「私も呆れるぐらい一途だわ……」

薄暗い部屋でベッドのシーツに反射する月明かりを見つめて、雪菜が震える言葉を零す。
つ、と頬を伝って流れていた涙は、そのまま音も立てずにダークグレーのシーツを黒く染め上げていった。

「……シリウス」

13年間流し続けた涙は、あとどれぐらいで乾くのだろう。
今どこにいるのか、生きているのかすら分からない。

いったい何時まで待っていればいいのか、もしかして、とネガティブに走り出した思考をストップさせて、雪菜はブランケットを手で引き寄せて瞳を閉じた。
少しでも昔の、温かい記憶を求めて――……





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This is an old story but I need it for...


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