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Just as you are * Lunch break!





授業が終わってすぐに教授に呼び止められた彼女に言われるがまま先に食堂にきたシリウスは、適当な席に座り、肘を突いて目の前に並んでいるランチのメニューを一通り眺めた。
サンドイッチに、フルーツ、マフィンに、パイ、食後のデザートにか(リーマスには主食かもしれないけど)、ケーキやクッキーまで並んでいる。
すぐに食堂に顔を出すだろう彼女が、今日はどれに手をつけるのか、なんて考えを巡らせていると目の前に見知らぬ女子生徒が座った。

「あら、シリウス一人なの?」
「いや、雪菜待ってる」
「ふぅん、ねぇ、次の日曜日何してる?」

そう問いかけながら目の前に断りも無く座った女子生徒に、シリウスは自分の隣の席に教科書を置いた――席の確保といわんばかりに。
そんな女子生徒に日曜日に何をしているかなんて教える義務もない、とその質問に答えずに目の前に並べてあったリンゴを無造作に触っていると、女子生徒はそれでも何か言いたげにコチラを見ている。
こういう視線は好きじゃないし、自分に期待をされても答える事が出来ないのは百も承知の筈なのに、どうしてだと内心で悪態突きながらシリウスはため息を漏らした。

「食わねぇの?」
「え?」
「ミートパイ、美味そうだけど?」
「私こんなに食べれないわ」

コレで十分、なんて尋ねても無いのに小皿に少量のパンと野菜を乗せた女子生徒に、シリウスは視線を外した。
正直別に目の前の女子生徒が食べようが食べまいが全く気にもならないが、どう見てもその分量は人間の一日に必要なエネルギーを大幅に下回っている。
明らかに、”小食”なんて訳の分からないものをアピールしている女子生徒に、シリウスがもう一度溜息を漏らそうとしたその時。

「ごめんね、遅くなっちゃった」

自分の隣に現れた手に、首をひねると少し息を切らした雪菜の姿。
ありがとう、と告げてからシリウスの教科書をどけて隣に座り込んだ彼女は、シリウスと目の前の彼女を見つめて軽く小首を傾げてみせた。

「あれ、ミシェル、それだけで足りるの?」
「……十分よ」
「そっか、だからそんなにスタイル良いんだね、羨ましい」

悪気一つないのだろう、素直な感想を述べた雪菜は目の前のバスケットに入っていたミートパイを迷う事無く更に取り分ける。
俺も、とシリウスが差し出した小皿にも、当たり前のようにミートパイを取り分けた彼女はさくりと綺麗な効果音を立ててソレにナイフを突きつけた。

「やっぱりミートパイが一番美味しいと思う、私」
「昨日はキッシュが一番美味いって言ってなかったっけ?」
「え、そうだったっけ。うーん、本当に何れも美味しくて困っちゃう」

”胃袋があと何十個も欲しいね”なんてすっ飛んだ発言をしながらももぐもぐと美味しそうにミートパイを食べる雪菜に、シリウスも笑いながら相槌を返す。
ふと気付けば目の前の女子生徒は既に席を立っており、遠目にちらりと食堂を後にしようとした彼女が机のマフィンを3個程抱え込んでるのを見てシリウスは乾いた笑みを鼻で漏らした。
それに”どうしたの?”と不思議そうに顔をあげた雪菜に、なんでもない、と首を振ろうと視線を戻して思わず吹き出しながら、挽き肉なんて”可愛らしい”ものを口元につけた彼女のそれを指で摘んで飲み込んだ。




”ミートパイもう一個食べるけどシリウスもいる?”

”俺もう腹いっぱい”

”えー?デザートのケーキは?”

”……”




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