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Just as you are * Good Morning!





首を捻って、欠伸を隠すことなく一つ大きく漏らす。
それと同時にガチャリと聞きなれた音が響いたその方向に首を向けて、シリウスは興味なさそうに視線を戻した。
トン、トン、トンと耳に響いてくる音はやがて自分の前を通過していく。
ヤケに鼻につく強い香水の香りに眉間に皺を寄せて顔をあげると、目の前を通り過ぎようとしていたのは人形のように着飾った女子生徒。
いったい朝からどれだけの時間を費やしたのだろう、と思うぐらいに完璧に施されたメイクに、皺一つない制服。
綺麗に巻かれた髪の毛が背中をくるくると跳ねていた様子を何気なく視線で追っていると、女子生徒が自信満々な笑みを浮かべてシリウスを振り返る。
背中に目でもついてるのか、と露骨に顔を顰めて見せれば、それでも懲りずに女子生徒はウィンクを一つ綺麗に決めてから颯爽と太ったレディを潜り抜けていった。

「くせぇ」

スン、と鼻を鳴らして小言を漏らす。

ほんの数秒だったにも関わらず、すっかりと鼻に染み付いてしまった香りにシリウスは大袈裟にその場の空気を仰ごうと首を持ち上げると、先ほどの”お人形さん”が出てきた扉がまた開いた。
今度こそ送った視線は無駄になる事はなく、ひょこりと顔を出したのはお目当ての人物、雪菜の姿。

「おはよ、雪菜」
「はよー、シリウス」

トン、トン、トンと音を立てながら降りてくる姿を足元から見上げる事数十秒。
やがて自分の前にのろのろと現われた雪菜の髪の毛をくしゃりと片手で撫でてみると、ふわふわとした寝癖に指先が沈む。
いつもの事ながら撫でられている本人は気に留めることもせず、眠たそうにその首をゆっくりと持ち上げながらシリウスを見上げた。

思わず噴出しそうになったのは、その瞳が全然開ききっていないせい。

自分は鏡の前で身だしなみをそれなりに整えて出てきたのに、目の前の雪菜はパジャマから制服に着替えただけだ。
仮にも”彼氏”に会うならもう少し、と考えてから、今更そんな事気にする間柄ではないし、と思い直してシリウスはそんな彼女の髪を出来るだけ丁寧に整えながら、ついでに頬に挨拶のキスを落とすと鼻に雪菜の香りがくすぐってくる。
作られた香りでもなんでもないその香りをいっぱいに吸い込んでみると、雪菜はくすぐったそうに笑みを零して身体を捩った。

「雪菜?」
「うんー?」
「眠い?」
「うん」

くぁ、と自分が漏らしたよりも小さな欠伸、だけど顔いっぱいに広がったその欠伸にシリウスは”しょうがねぇな”と笑みを浮かべたまま彼女の胸元へ手を伸ばす。
適当に結んできたのだろう、歪なリボンは結んだというよりかは捻っただけにも見えるそれを、ぴ、っと手で引っ張れば反動で雪菜がぐらりと身体のバランスを崩し――うぁ、と漏らした雪菜を受け止めながら、シリウスは綺麗に彼女の胸元にリボンを飾った。




”これでよし”

”ありがと。いつか私がネクタイ結んだげるよ!”

”俺より早起きできたらな?”



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