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*注意!
本文中に4カ所、挿絵に繋がるリンクが貼ってあります。
擬人化、挿絵等が苦手な方はクリックをせずに、スルーして下さい。



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カチャリと静かな音を立てて、雪菜はマグカップを机に戻した。
ふぅと長い息をつけば、口から白い息があがる。
もうすっかり冬景色になってしまった、なんて思いながらもこのカフェで座るのはいつも同じテラス席。
別に室内が満席な訳でもないのだが、通りが植木から垣間見えるこのテーブルが雪菜のお気に入りの場所なのだ。

「もう会えないのかな」

寒いことを気遣ったように店員から渡されたブランケットを膝元にかけなおして、雪菜は空を仰ぎ見た。
初めて会った時から不思議な人だとは思っていた。
何度か会話を交わしただけだとはいえ、確かに今考えれば会話の節々から今になって読みとれるーー彼が人間じゃなかった事を。

「ある意味有名人にあえて、私ってばラッキーだったのかも?」

くすりと一人ごちて笑い、雪菜は軽い咳払いを漏らした。
オートボットやディセプティコンが地球に来たのは雪菜が生まれてすぐのこと。
当時の詳細は人伝いにしか聞いたことがないが、彼らが自分たちを守ってくれる存在だと言うことは学校の授業でも習った。
隠れているわけではないが、その姿を見た人は少なくとも雪菜の周りにはいない。
無論、軍なんかとは縁のない生活をしているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。

「よぉ」

そんな事をのんびりと考えていればふと、背後の扉がギィと音を立てる。
そして、間もなく雪菜の耳に届いた声。
聞き覚えがない訳でもない、むしろ聞きたくて仕方がなかったその声に、雪菜はゆっくりと背後を振り返った。

「ジャズ?」

自分しかいないテラス席でかけられる声は自分へのものしかない上に、勿論この声の主を見間違える訳もない。
振り返ったそこに居た銀髪の男を視界に入れるや否や、雪菜は勢いよくその場を立ち上がった。

「久し振り!ちょうどジャズの事考えてたところだったんだよ」
「そ、か」
「座る?」

そう促してみれば、ジャズのバイザー越しに見えていた瞳が少しだけ揺れる。
そのまましばらくしても立ち尽くしたまま返事のないジャズに雪菜が視線をなげかけると、ジャズの手がぴくりと揺れた。

「いや……、」
「あ、それとも外は寒い?中に入る?」

問いかけながら雪菜が更に小首を傾げてみせれば、今度はジャズが少しだけ狼狽した様子で首を横に一振り。
なかなか口を開こうとしないジャズに辛抱強くその場で雪菜が佇んでいれば、やがて何かを決心したようにジャズが口の端を軽く上げた。

「今日は詫びを言いにきただけだ」
「詫び?」

予想していなかった言葉に、思わず言葉を反芻して雪菜が目を瞬かせる事暫く。
苦笑のような、複雑そうな笑顔を浮かべたジャズの顔をまじまじと見返していれば、今度はそっと頭にジャズの手が重ねられた。

「悪かったな、怖い思いさせちまって」
「怖い思い?」
「……、ほら、前回」

やわやわと頭を包む彼の手からは、しっかりと体温が伝わってくる。
こうして見上げる彼の表情はどこからどうみても人間にしか見えないのに。
本当に金属生命体なのかと疑いたくすらなるものの、"前回"の様子を脳裏に呼び起こしながら雪菜は頬を緩めてみせた。

「びっくりはしたけど、ジャズが守ってくれたじゃない」

怖くなかった訳ではないが、実際恐怖が全身を纏うよりも先にトランスフォームしたジャズの手の先から出た光が残党を打ち砕いた。
目の前で煙を上げていた相手よりも、ジャズの正体に驚きが隠せなかったという方が正しい。

「どしたの?」
「……いや、もっとビビられると思ってたから」

拍子抜けした、と呟いたジャズの目がカシャリと小さな音を立てる。
その音にぴくりと反応したのは雪菜だったが、当の本人はそれどころではないように、依然として少しだけ驚いた様に目を見開いていた。

「ビビる?いや、ビビったけど、それはジャズじゃなくてディセプティコンにだし」
「あいつはディセプティコンだけど、残党だ。メガトロン率いるディセプティコンと俺らはもう和解している」
「……ふぅん」

告げられた言葉に雪菜が少しだけ目を細めてみせる。
そういえば、そんな事も学校で習った覚えがあるような、ないような。
いずれにしろ、ジャズ(そう、確かにその名前も授業で習った覚えが気がしなくもない)の属するのは今の口振りからするにオートボットの方だろう。
となれば、彼は人間側。
その彼が一体何を人間相手にこれ程までに怯えているのだろうか、と雪菜はジャズの瞳を見返したままぱちぱちと瞳を何度も瞬かせてみせた。

「だから……つまり、お前は俺と一緒に居ない方がいい」
「え、どうして?」
「俺は金属生命体だろ?」
「うん、それで?」
「それでって、お前な……」

真っすぐに問い直した雪菜の質問に、ジャズから困った様な声が上がる。
実際に彼が金属生命体だろうが何だろうが、今こうして雪菜の前に立っているのは人間の男と何一つ変わりない。
話せば通じる相手であり、そして自分を咄嗟に守ってくれた相手なのだから。

「怖いだろう?」
「何が?」
「また襲われるかもしれねーし、それに……俺は、人間じゃねぇんだぞ」

今までの彼らしくなく、少しだけ語尾が弱い言葉で紡がれた言葉。
そのジャズの言葉に雪菜はようやく、彼の告げようとしている事に察しがいった。
――ああ、そういう事か、と。

「ねぇ、ジャズ。怖くないよ?」
「、」
「そりゃ、びっくりしたけど、ジャズはジャズだし。あ、って言ってもたった数回しか会ってない私に言われても説得力ないかもしれないけど」

少し驚いた様に目を瞬かせたジャズに向かって、雪菜が笑みを零した。
一体彼等の年齢は幾つになるんだろう、おそらく自分とは比べ物にならない程に長い年月を過ごしてきている筈だけれど。
それでも、対異種相手にこんなに臆病に

「私は貴方とお茶を飲むの、楽しくて好きよ?それに、私はもっともっとジャズっていう人を――機械生命体の貴方を知りたいわ」
「……」
「でも、それが貴方にとって"まずい事"だったり、怖い事だったなら、強制はしない」

そう言葉を紡ぎながらジャズの頬に手を伸ばした雪菜の手に、ジャズは頬が少しだけ反射的に収縮するのを感じた。
肌を模した表面から伝わるのは、少しだけ温かい雪菜の体温。
その温度にスパークが緩く音を立て始めた事に気がつきながらも、ぽつり、とジャズが口を開いた。

「……本当は、ずっと近くに行ってみたかったんだ」
「うん?」
「もうずっと、任務の途中にお前がここでお茶をしてるの見てきてた、から」

最初は偶然だった。
面倒な任務に行く途中、そしてたまたま引っかかった信号の時間つぶしに周りへ視覚センサーを飛ばしていた時に偶然に入った女の姿。
その時は気にも止めなかったのに、同じ事が3回続いた日からいつの間にかセンサーは無意識にも女を――雪菜を探す様になっていた。
そして、彼女がいつもあそこに座っている理由が知りたくて、こっそりと居ない時間に座ってみたのが、図らずとも雪菜と会話をした一回目となってしまった。

「一般人と関わる事は禁止されてる訳でもねぇし、悪い訳でもねぇけど」
「うん」
「それでも、俺らは……"エイリアン"だし」
「そんなの、ジャズからすれば私たちが"エイリアン"じゃない」

くす、と可笑しそうに笑みを零した雪菜に、ジャズのスパークがチリと音を立てる。
地球に来てからもう十年が経とうとしているのに、未だに仲間内のトランスフォーマ―達は軍の人間以外のものと関わりを持とうとはしていない。
その原因は考えずとも理解ができる、一般人にとっては機械生命体なんて自分達の街を壊す恐怖の存在でしかないのだから。
自分達よりも遥かにひ弱な人間なのだ、そう思う事は別に不思議な事でも何でもない。
だから、正体が知れてしまった彼女もてっきり……自分を拒絶の目で見つめると思っていたのに。

「涙……?」
「ち、っげぇ」
「ふふ、恥ずかしがらなくてもいいのに」

温かい彼女の手のひらと、温かい笑み。
どうして、こんなに簡単に自分を受け入れてくれるのだろう、とジャズがスパークの内で解析をしても弾き出されてしまうエラー結果。
代わりに地球に拠点を置くと決めてすぐに、レノックスが"お前ら、でかいのは図体だけか!"なんて苦笑をしていたメモリーがスパークに呼び出されてしまう。
――その通りだ、とジャズは内で苦笑を漏らした。

「私はもっとジャズと一緒にいたいし、お話もしたいよ?」

そんなジャズに"貴方は?"と頬からそっと手を離した雪菜に、ジャズは瞳の端に感じていた水滴を指で軽く払った。
スパークの内が、温かい。
ここに来るまであれ程冷えきっていたのに、いつの間にか心地のいい熱を持ったそれを感じながら、ジャズは口元に笑みを浮かべてみせた。

「俺も、お前ともっと一緒に居たい」
「えっ、ちょ!」

ジャズの満面の笑みをようやく見れたかと思うや否や、雪菜の視界がぐらりと揺れる。
そして1秒もしないうちに背中に感じる緩やかな締め付け、そして頬をくすぐった銀色の細い髪の毛。
自分が抱きしめられている、と気付くのに要する時間はおおよそ5秒といったところだろうか。

「じゃ、じゃ、じゃず!何?!」
「嬉しくって、つい」
「ついじゃないでしょう!ちょ、ここテラス!!みんな見てる!!」
「見てねぇって」
「見てる見てる見てる!!」

ぎゅぅ、と少し苦しいぐらいの力加減で今一度締め付けられ、そしてようやく元の視界にジャズの笑顔が飛び込んでくる。
先程までのあの不安感いっぱいの表情はどこへやら、代わりに浮かべられる無邪気が笑顔には――さすがの雪菜でさえも、怒る気もすっかりと失せてしまった。

「恥ずかしいのか?」
「当たり前でしょう!次にいきなり抱きしめるなんてしたら、か、か、カフェラテぶっかけるんだからね!」

信じられない!と頬を真っ赤にして怒ったように眉間に皺を寄せる雪菜。
その姿を見つめて、そして今までと何一つ変わらないその瞳をまじまじと見つめてから、ジャズは嬉々とした笑みを浮かべた。

「なぁ、もっと教えてくれ。人間の事、それにお前の事――もっと、知りたい」

そんな風に笑顔を見せるなんてずるい、と雪菜が悔しそうに小言を漏らす、そんな様子一つでさえも今のジャズにとっては嬉しくて仕方が無い。
もう駄目だと思っていたから、もう受け入れてもらえないと思っていたから。
目の前で笑ったり怒ったり。
忙しなく表情を変える雪菜の頬に手を伸ばしながら、ジャズはくすりと楽し気に人間らしく喉を鳴らして笑った。





*****
ジャズさん意外とチキンハート。
この二人、どういう道を歩いて行くんだろうふふふ。
これ教えて、あれ教えてっていうジャズの質問、どんどん恋愛方向にエスカレートしていくものをおろおろしながら答える雪菜嬢かわゆいだろうな、とか思ったり。

そしてそして!スペシャルサンクスfor 天気さん(・∀・)!
素敵なジャズを4枚、挿絵として頂きましたヾ(´∀`*)ノ
ジャズさんイケメソすぎる…画像を見つめてリアル夢をお楽しみ下さい(ハフハフ
ああん、本当にジャズの満面の笑顔とか鼻血ものですよ奥さん……!
転写は勿論禁止です、このお話の内だけでお楽しみ下さいませ(ヘコリ