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(11)クロスヘアーズ



大きな扉を両手で開けば、すぐに飛び込んで来た緑のトランスフォーマー。
さすがにこの時間に雪菜が現れるとは万能なブレインサーキットでも予想をしていなかったのだろう、hun?と驚きの声をあげたクロスヘアーズに、雪菜は裸足のままペタペタと近寄った。

『どうしたんだ、もう朝の3時だぞ』
「なんか…寝れなくて」
『つっても、こんなところだと余計に寝れねぇだろ』

そう言いながら両手を広げたクロスヘアーズに、雪菜は目をこすった。
彼らが原型のままて寛げる程の大きな倉庫は、確かに人間が寝るには殺風景すぎる。
けれども、と雪菜は地面に腰を下ろしていたクロスヘアーズの足元をよじ登り(おいおい、と言いながらもクロスヘアーズが助けてくれた)、ちょこん、と彼の膝に横になった。

『マジか』
「ここの方がいい」
『動けねぇだろ、俺が』
「…お願い」

トロンとした瞳で下から見上げる雪菜に、クロスヘアーズのスパークがぎゅっと締め付けられる。
加えて、膝あたりの温度を無意識に上げてしまっていれば、すぐに気持ち良さそうに雪菜が頬ずりをした。

『雪菜チャンはクロスヘアーズにべったりだな』

そう茶化すようにクロスヘアーズの背後に現れたハウンドに、いつもなら真っ赤になる雪菜だが、今日ばかりは眠気が優ったのだろう。
相変わらず無防備な笑顔を浮かべる雪菜は、欠伸をしながらハウンドに視線を移した。

「うん、ここが一番安心するの」
『!』
『へぇ、俺だと役不足ってことか?』
「わかん、ないけど、クロスヘアーズの、ここ、好、」

すや、と途中で言葉をなくした雪菜が瞳を閉じて寝息を立て始める。
それをマジマジと見下ろしていたハウンドは、ふと思いついたように片手で雪菜を触ろうとして…ガツン、と緑の壁に妨げられた。

『なんだぁ?俺の腹で寝かせてやろうと思ったんだがな?』
『おっさんの腹だと落ちるだろうが。そうなると後が面倒だ』

ふん、と迷惑そうな表情を浮かべながらもクロスヘアーズはマントを少しだけ変形させて、雪菜をそっと包み込む。
そんなクロスヘアーズを面白そうに笑ったハウンドは、ニヤニヤと笑いながら倉庫の出口へと向かった。

『さて、ちょっくら身体動かしてくっかな、そろそろ俺も腹を気にしなきゃなんねぇし』

そう言いながらトランスフォームして出て行ったハウンドを無言で見送ったクロスヘアーズは、自身の膝の上ですっかり熟睡している雪菜に被せたマントの温度調節をしながら、なんとも言えない排気音を静かに漏らした。

***
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