![]() New Text on Anatomy -修正項目その1- 簡単に検体といっても、そんな適当なものを作った訳ではない。 万が一にでも悪影響がでたら彼女である雪菜はもちろん、オートボットにおいても大打撃になってしまうのだから。 連日連夜ラチェットと共に頭を抱えながら作り上げたその液体――見た目は確かに酷いが――に不備不満は今のところ考え付かない。 『さて、やってみようかね』 「楽しみですね」 『……もう一思いにやってくれ』 ぐっと手に力をいれて横たわるジャズは暴れることなく大人しくリペア台へと横になっている。 それでも忙しなく至る所の金属が揺れている辺り、内心はパニック寸前といったところなのだろうか。 "ちょっとお茶でも飲もうか"なんて提案するラチェットに、"頼むから早くやってくれ"とな泣きそうな声をあげるジャズに苦笑を漏らして、雪菜は剥き出しに開いたジャズのスパークに液体をどろりとかけ始めた。 『う、あ、』 ゆっくりと染み渡っていく液体にギュルルルと聞いたことがない音がジャズの体から響き渡り、いつも彼が唸る時にでるモーター音も激しく音をたてる。 苦しいのだろうか、時折声を上げるジャズに慌ててラチェットを見てみるが、彼もカメラアイでスキャンをしているようで、じっとその様子を見つめたまま動かない。 『っ、く、』 暫くしてやがて、ヒュンという聞きなれない音が耳に届いた。 その瞬間に体を構成していた金属のパーツがゆらりと歪み、ゆっくりと形を変えていく。 その様子を固唾を呑んで見守りながら雪菜も――恐らくラチェットもだろう、作った本人達ですら驚きを隠せない程の動きが始まった。 ゆらゆらと奇妙に揺れながら確実に人の形へと変わっていく。 その姿は何とも説明する事も難しくむしろ――神とは一番遠い彼等に、"神秘"等と感じてしまう程。 「す、ごい、」 一連の変化をまじまじと見つめていれば、やがてシュゥと機械音らしい排気音が響き……目の前に”銀髪の男”が現れた。 変形しきれない体の一部はそのまま残るという導き出した仮定は、実証を促すかの如くに男はサイズこそ変われど、バイザーをつけたまま。 微動だにせずにじっとしている彼の無事の変形に安堵を漏らしつつ、雪菜は横たわる彼に声をかけた。 「ジャズ?大丈夫?聞こえてる?」 「ん、」 その問いかけに答える様に、ぴくりと指先が動く。 もぞ、もぞ、と体全身に少しずつ力をかけながらもゆっくりと起き上がる彼をじっと見つめていれば、やがて軽く頭を振ってこちらを見たジャズの口元が綺麗なカーブを描いた。 「お前の……腕も、なかなかじゃねぇか」 「よ、かったぁ……!」 『これはなかなか、ふむ。ジャズ、ブレインサーキットは異常なく作動しているか』 「………あぁ、どれも問題ない」 しばしの間をおいてジャズが両手を見下ろしながらラチェットの問いへと答えた。 途切れた間は通信でもしていたのか、キュルと静かな機械音が彼の体から響いてくる。 手を握ったり、自分の顔や胸を触ったり。 確認する様に体を動かし始めたジャズに一安心と胸を撫で下ろしてから――はた、と気付いてしまった。 考えてみれば至極当然の事なのだが、そこまで頭が回らなかった自分が今更ながらに悔やまれる。 慌ててラチェットの手の後ろへと体を隠してみれば、ラチェットもまたそれに気付いたのか、雪菜を包みこむ様に掴んでそっと地面へと下ろした。 「雪菜?」 「え、あ、はいっ!」 「どうしたんだ?」 そのままパタパタと出て行こうとする雪菜に、体の動きを一連確認し終わったジャズから声がかかる。 丁度人間用の出入り口に手をかけた雪菜はその言葉にびくりと体を縮ませたが、その後姿はジャズを振り向かない。 どうした、なんて不安気なジャズの声に後ろ髪を引かれながらも、雪菜はドアノブを押し下げた。 「……服、借りてくる」 「は?」 思わぬ返しとでも言わんかの様にすぐさま間の抜けたジャズの声に……すぐに、”うぉ”なんて慌てた声が背後から聞こえてくる。 エップスと同じサイズだよ、なんていうラチェットのくつくつ笑う声に耳まで真っ赤になりながら頷いて、雪菜はリペアルームを走り去っていった。 修正項目その1 衣服の初期設定 **** >>back >>next |