real time | ナノ

breeze*
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:: 初赤司くん妄想
この時間の新幹線のホームはサラリーマンばかり。
忙しなく電話をかける人や、膝の上にPCを開いている人。
例に漏れず、雪菜もまた客先からの電話対応をようやく終えると、携帯をカバンの中に投げ込んだ。
今日は家に直接帰ろうと思っていたのに、この様子だと出張帰りには一度オフィスに戻る必要がありそうだ。

そんな中、自分の乗る車両の乗車口へと向かうと、何やら場違いなグループが不意に雪菜の目に飛び込んでくる。
服装や持ち物から推測するに、部活の遠征か何かだろうか。
やたら目立っている色とりどりのカラフルなその頭髪は、雪菜の頭二つは大きい。
物珍しさもあり、何となく後ろに並んだ雪菜は、目の前で仲良さ気に会話を交わしている彼らの会話にそっと耳をすませた。

「黒子っちの席の隣は俺なんっすよ!」
「あ?テツは俺の隣だ。お前は一人で座ってろ」
「えぇ〜…」

すぐに聞こえてきたのは、ぎゃいぎゃいと何かを訴えているやりとり。
その内容に思わず驚いてしまったのは、きっと会話の主達が男子学生のせい。
……この年の男の子達は反抗期で、席なんて一人で座ると言い出すのかと思えば、黄色い髪の男が主張をしているのは正反対の内容。
加えて、がっくりと頭を落とした彼の背中に、雪菜は思わず小さく吹き出した。

ー大きい犬みたい……可愛いなぁー

青色の髪の男の言いくるめられた彼は、未だ諦めていないのだろう。
身振り手振り、はたまた水色の髪の毛の男の子に抱きついたりなんかして、諦めきれずに主張を繰り返している。
そんなやり取りがどこか懐かしくて、そして可笑しくて。
ついつい口元に描いたままの笑みで事の成り行きを眺めていればふと、黄色い彼のすぐ隣に居た赤髪の男子学生と目が合った。
ーー瞬間、雪菜の背にヒヤリとしたものが走る。
見ず知らずの会話に耳を立てていたのがばれてしまった、と。

思わず緩めていた頬を引き締めて、咄嗟にへこり、とほんの少しだけ謝罪の意を込めて会釈をしてみれば、一瞬小さく見開かれた瞳とは裏腹に、今度は赤髪の彼が口元を緩める。
それが何となく気恥ずかしかったけれど、たかだか学生相手に何を緊張しているのだ、と雪菜はそのまま彼らから視線をそらして新幹線のチケットに視線を落とした。

*

新幹線に乗ると、それはそれは車内の騒がしさといったら。

ー黒子っち、お菓子食うっす!ー
ーあー、俺も食いたい、袋ごとちょうだいー

また騒ぎ出した黄色い髪の彼を筆頭に、まるで修学旅行の車両貸し切りと錯覚してしまう程に丸聞こえの会話。
あぁ、これから数時間は覚悟するか、とか、若いっていいな、なんて思いながらも、雪菜は一番後ろの窓側の席に荷物を置いて、再び着信を告げ始めた携帯を片手に車両を後にした。

*

申し訳ありません、と何度姿の見えない相手に告げただろう。
電波の良くない車内でなんとか話を終えて暫く。
もう同じ相手から電話がかかってこない事を祈りながら、雪菜はため息を漏らしてから再び車内へ戻った。
すると案の定、自分の窓際の席の手前、通路側に先ほどは居なかった先客が座っているのが目に飛び込む。
……後ろから見えるその髪色は、赤い。

「すいません」

そう、小声で雪菜が伝えると、本を読んでいた彼の視線が雪菜の瞳と交わる。

「ああ、通れるかい?」
「えぇ、大丈夫です」

そそくさと前を横断して自分の席へと座ると、隣の席からフッと息の漏れる音がした。

「…あぁ、失礼」

脈絡の何その態度に、思わず雪菜が隣へ顔を向けると、赤髪の男子学生は何故か楽しそうに瞳を細めて雪菜を見ていた。
思えば、普通こういう場所では敬語を使うのが一般的ではないのか、なんて年老いた考えが雪菜の頭を一瞬過ったが、見ず知らずの、しかも学生を相手に注意をする程ではない。
何やら感じだ視線は年上に興味でもあったせいだろう、なんて都合よくにポジティブに解釈をしながら、雪菜が仕事の鞄から書類を取り出せば、「ねぇ」とまたしても隣から声がかけられた。

「はい?」

その言葉にまるで当たり前に引き寄せられるように首を動かせば、赤髪の彼はどこか楽しそうに雪菜へと顔を寄せてくる。

「さっき、どうして笑ってたんだい?」

まるでこっそりと秘密話でもするかのように突然寄せられた距離に、思わず雪菜は驚きに目を見開いた。

「、え?」
「言えない事でも考えてた、とか?」

どうしてだろう、そんな彼の言葉を耳にした途端に、雪菜の頬に熱がこみ上げてくる。
きっと不意打ちに距離が近かったせいに違いない、第一こんな年下の学生相手に余裕を無くすなんてあり得るわけがない。
一瞬訪れたほんの数秒の沈黙の間に頭をフル回転させ、雪菜は彼との距離を少しだけ離しながら、精一杯に何気無い風を装って口を開いた。

「べ、別に……何もないです。ちょっとだけ、学生さんって可愛らしいなって思っただけ、…です」
「可愛い?」
「ほら、あの黄色い…貴方の連れの」

あの人、と視線を投げた先には一つ前に座る黄色い髪が目立つ彼の後頭部。
そう告げた雪菜の視線を追うように、赤髪の彼はそれにチラと視線を向けると、あぁ、と納得したように小さなため息を漏らした。

「落ち着きがなさすぎるんだよ、あいつは」
「ふふ、でも楽しそうじゃないですか。若いっていいですね」
「そうかい?」

そう答える彼も、自分よりか勿論年下の学生なんだろう。
中学生だろうか、高校生だろうか。
けれども、他のカラフル集団とは明らかに違う、どこか大人びた空気を唯一纏っている風に感じられる彼に、雪菜は一度だけ笑顔を向けてから、手元の書類へと視線を落ち着けた。

「若いって事は良い事ばかりじゃないさ」
「私からしたら、毎日追われてばっかりの仕事よりかは、十分充実してるって……思います。そのうち、きっと貴方にも分かる筈です」

パサリ、と書類を捲りながら本日の打ち合わせを脳内で思い返す。
会話の終わりを案に告げるようにリバイズをかける箇所に雪菜がペンを走らせ始めれば、隣の彼も再び本を手に広げ始めた。

小一時間ほど経った頃合いだろうか、車内に停車を告げる耳触りの良い音楽がが響く。
チラと顔をあげれば、生憎自分の降りる駅のまだ手前。
けれども、ゴソゴソと鞄に本を戻し始めた彼に、あぁここで降りるのか、なんて他人事に思っていれば、突然雪菜の右手に熱が走った。

「だって、今の僕だと眼中には入れないだろう?」
「は?」
「まだ差があるからね、僕らは」
「え、と、」

感じた熱の原因は、彼が雪菜の手に自身の手を重ねてきたせい。
そんな彼の意味深な行動に、突如忙しなく鳴り始めてしまう心音。
そこまで女として枯れいている自覚はなかったのに、なんて何度心に言いつけても、心臓からは一際大きな音が耳にまで響いてくるだけ。
完全に言葉を失ってしまい、赤い髪の男を見つめ返す事しかできない雪菜に、気を良くしたように笑った彼は、雪菜の頬へとそっと顔を寄せた。

「でもまぁ、ちょっとは意識してくれたかな?」
「、」
「赤司征十郎だよ。覚えておいて」

まるで身動き一つ取れずに固まってしまった雪菜の耳に響いたのはリップ音と彼の名前。
ぞわり、と全身に何かが走っていく感覚に、雪菜はごくりと唾を飲み込んだ。

「じゃあ、またね、雪菜?」

最後に耳に届いたのはクスクスと笑う彼の笑い声。
そして何事もなかったかのように、彼の派手な仲間と車両を後にしてしまった彼を目で追う事もできず、ようやく雪菜が瞳を瞬かせれたのは列車が走り去って暫くしてのことだった。

「な、な、なんなの、あれは……!」

鏡を見なくても分かるほど真っ赤に染まり上がっているであろう頬。
若干震えている気がする片手を見下ろして、そして……カサ、といつの間にか握らされていたその存在に気がついた。
紙の上を滑るように書かれていたのは、先ほど耳にした名前と、携帯の番号がかかれた一枚の紙切れ。

「……、」

新手のナンパだろうか、けれども降車間際の彼は、自分の名前を知っていた。
一体どうして、と気にはなるが、残念ながら答えをくれる彼はここにはもういない。

「これってつまり、私が…かけろってこと?」

ピラりと紙切れをもう一度見つめて、一人言葉を漏らす。
いやいや、学生相手に何を考えているんだ、と一瞬その紙を捨てるか迷ったけれど、けれども。

「気が向いたら、ね」

結局、開きっぱなしの手帳に紙切れを挟み込みながら、雪菜は大きく息を吐いた。


end?
こっから始まる恋愛もあるのだろうか。仮にヒロインを25として……中学でキャプテンの赤司君はマックス15歳。10歳差の恋愛、赤司君はどうするんでしょうねぇ、またのんびり妄想に励みます^q^
2014/01/15 22:43 (0)
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