(0)序


以蔵は元来泣きっぽいタチだった。
正確に言えば感情の制御が苦手だった。ときおり特に耐え難い衝動が腹の中をののたうち回り、以蔵をだめにした。思いが言葉にならず、口より語る瞳が憎悪で相手を噛み殺した。そんな己をよそに、相手が理路整然と喋り続けることに余計に腹を立てた。頭のいい奴は嫌いだ。いつだって遠くばかりを見て、以蔵を置いていく。見下しバカにするばかりで、そのくせどうして以蔵の想い一つ汲み取ってくれないのだろう。
動乱の世はくるりくるりと正義が入れ替わり、考えぬもの、古きものに次々と終わりを与えていった。
――岡田以蔵はきっと前者だった。

 

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