::こことらず1::


視点なし


道の凹凸に揺れるバス。

運転席にある船に乗ったカッパのフィギュアが少し揺れた。

エンジン音に混じって微かな口笛が聴こえる。

口笛が止んだ。

「嬢ちゃん、うぃーむらへは何しに行くんだ?」

うんてんしゅさんが、訛りを隠さぬ口調で質問したあと、ちらりとバックミラーを見る。

そこに写っているのは、目がぱっちりとしていて、ミントギンガムをまとった少女が、足をぶらぶらさせて行儀よく座っている光景。

今、このバスに乗っている乗客はその少女と、引っ越す者なら誰でも知っているあの例のネコさん。

「あぁ、うんてんしゅさん、この子無口なんだ」

にこにことフォローする青と白のネコ。

「へぇ…そうか」

一旦会話が切れる。

少女が、「みしらぬネコ」の方へ顔を向ける。

ネコさんがその視線に気付くと、またにっこりと笑った。

「大丈夫!案ずるよりってね。今回もきっと上手く行くよ…ここさん!」

景色がゆっくりになる。

「嬢ちゃん、もううぃーむらだべ」

落ちていくバスのスピード。

バスが止まった。

新しい生活が始まる。

「あっけけライダーの時間」

「(喋った!)」

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