「リュカか。何しに来た?」
咎めるでもなくガノンドロフは云った。それに対してもびくつくリュカの様子に自分の顔はそんなにも恐ろしいものか、そう思案しながら眉間に寄ったしわに少々慌てる。尚更怖がられてしまう。指を当て誤魔化しているとリュカの手元に視線が止まる。
「それは」
それは小さな紙袋。そう、ちょうどうぃーむらの住人からもらったコスモスやらパンジーやらのタネが入った袋に似ている。
「…ひまわりです。ひまわりのタネ…」
ガノンドロフの隣に座り込むと、目の前の花壇の土を掘り始める。
「…お前は本当にひまわりが好きなのだな」
確か以前もそう云ったな。とガノンドロフは視線を宙にさ迷わせる。いつかのことを思い出しているのだろう。
「……」
リュカは黙ったままひまわりのタネを掘った穴に置いた。
「ひまわり、……」
云いながら土をかける。立ち上がり、転がっていたジョウロを手に取った。
「僕はこの花…好き、なんでしょうか」
顔を伏せたリュカにガノンドロフは眉をひそめた。
「好きかわからない花に囲まれるのが趣味か」
「……」
リュカはジョウロに水を入れ、ガノンドロフの隣に戻る。
「母が好きだったんです」
ガノンドロフは思い出していた。誰かわからないが女性の写真、そして隣の少年と顔のそっくりなオレンジの髪の少年の写真。それはリュカの部屋に置いてあり、常にひまわりが飾られてある。リュカは写真の女性の面影を残しているようにも見えた。傍に飾られるひまわりは春夏秋冬絶えずそこに飾られ続けている。リュカがマスターに頼んで一輪だけいつでもひまわりを育てていることをガノンドロフは知っていた。本来そういうことは認めないあのマスターが折れたのだからその必死さが伺える。
「好き、なんだと思います。でも」
リュカが土に水をまく。土の色が濃くなった。
「それはきっと後天的な理由です」
吸いきれなかった水が土に水溜まりをつくった。
「母が好きだったから、忘れたくないからそこに置いておくんです。でもそれを認めたくないから、だから自分がこのひまわりという花を好きなんだって理由をつけて、好きな花だからお母さんとクラウスに見て欲しくて、」
不意に言葉を切ったリュカを見やると、膝に顔を埋めていた。
「僕…成長出来てない…」
溜まっていた水は既に土が吸ったらしい、無くなっていた。
「……」
ガノンドロフは口をつぐんだ。
「…例え後天的だったとして、あまり関係ないのではないか」
リュカはちょっとだけ顔をあげた。
「成長云々など。ここにいる者たちはお前よりこどもな者ばかりだ。中身がな。そう…焦ることもあるまい」
「…焦ってません」
リュカが少し困ったような顔をした。
「…お前のひまわりはいつもよく咲いている。それなりに愛情がないとああは咲くまい」
この言葉の意味を理解したのか否か、リュカは小さくガノンドロフに云った。
「…ありがとうございます」




10.12.18
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