寄り添う明日


小鳥たちの可愛らしい囀りが遠くから聞こえる。
閉じた瞼は洞窟に差し込む太陽の明るさをぼんやりと感じ取り、無事に夜を越えた事を知らせてくれた。

少しの気だるさを残したまま、意識が浮上する。私の体はすっぽりと何かに包まれているようで、じんわりとぬくい……。
体勢を変えようと身じろぐと、頭上で布の擦れる音が鼓膜を掠めた。

「起きたか」
「ん……」

声のする方へと顔を上げればこちらを覗き込む瞳と視線が絡んだ。その顔を見て安心したのも束の間。昨日の情事が一気に脳内を駆け巡り、反射的に目を逸らしてしまう。
魔力供給と言いつつちゃっかり気持ちよくなってしまったし、私が動くと言っておきながら結局してもらっちゃったし……。

数時間前に与えられていた快感を鮮明に思い出して叫び出したくなる気持ちを抑えつつ、もう一度控え目に彼を見る。オルタの口元は緩い弧を描いていて、そのあまりに穏やかな表情に私の心臓はきゅうと音を立てた。……そんな目で見られると、たまらない気持ちになってしまう。

内に秘めていた思いを伝えて、その思いを受け入れてもらえて。所謂両思いというものになった後にそんな瞳を見てしまうと……どうしたら良いのか分からなくなる。私のこの気持ちとオルタの気持ちが一緒だなんて、本当なのかな。

体だけでなく心までぽかぽかとさせながらふと自分の体に視線を落とした時、ようやくマントで包まれている事に気付が付いた。やけにあたたかさを感じていたのはこのマントのお陰だったようだ。私の体が冷えないよう、一晩中抱き抱えてくれていたのだろうか。

「ずっとこうしててくれたの?」
「見張りも兼ねて起きていただけだ。気にするな」
「ありがとう……。オルタが今日眠れなかった分、カルデアに帰ったら一緒にたくさん寝よ!」
「ハ、そうだな」

そろそろここを出発して、藤丸くんたちと合流しなければ。
そう気合を入れて立ち上がろうとした瞬間、洞窟に待ち望んだ電子音が鳴り響いた。

「なまえちゃん!?オルタくん!?無事かい!?」
「ロ、ロマニ〜〜!!!!」

手首からけたたましく鳴る音。目の前に通信機をかざすと青い通信画面に映ったロマニが前のめりでこちらを覗き込んでいて、その見知った顔に安堵の息を吐く。
画面越しのロマニもホッと胸を撫で下ろしたような表情でゆっくりと椅子に座り直していた。

「はあ、良かった……!バイタルチェックでなまえちゃんの生命活動の動きは追えていたんだけど、やっぱりこの目で見るまでは安心できないからね。無事で本当に良かったよ」
「私は大丈夫だけど、オルタが怪我してて……!」
「うん、帰還次第メディカルチェックをしよう。オルタくんも、無事でよかった」
「……藤丸たちはどうしてる」
「ああ、安心してくれ。二人とも一緒だ。それに、怪我もないよ」

二人は着地点が街中だった事もあり、現地のサーヴァントの協力のもとなんとか事態を収束させてくれたらしい。こちらの報告をしながらなんの役にも立てなかったと落ち込む私に、ロマニはレイシフトの着地座標が問題だったと話を続けた。

私たちがいる場所は藤丸くんとマシュがいる市街地からかなり離れた広大な森林地帯で、敵反応の数も段違いだったようだ。どうして途中でバラバラの場所に飛ばされてしまったのかの原因はすぐには解明出来ず、同じ事を繰り返さないようダ・ヴィンチちゃんが原因を調べてくれているらしい。

「うーん。私も幸運D……いや、Eなのかな?」
「オレを見るんじゃねえよ」
「いや。この状況下にもかかわらず、たった一騎のサーヴァントで生き延びたのはむしろ運が良いんじゃないかな?残念ながら聖杯は欠片だったけど……全て回収したことで問題は解決したし、増えていたエネミーも落ち着いただろうから。もう外に出ても外敵に接触することはまずないはずだ。二人の座標を送るから中間地点で落ち合って、カルデアに……帰っておいで」
「っはい!」
「うん、いい返事だ!藤丸くん達にもなまえちゃんたちの居場所を送りたいから、一旦外に出て正確な座標を送れるかい?」
「了解、ちょっと待ってね」

よいしょとマントから抜け出し座らせてもらっていた太ももから立ち上がると、突然ロマニがわあ!?と慌て始める。

「えっ何!?敵!?」
「ちょっ、なまえちゃん!前!前閉めて!!」
「へ?」

指摘に視線を落とすと上着がはだけたままになっていて、下着が丸見えになっていた。昨日行為が終わった後の記憶が曖昧な上に、マントで包まれてぽかぽかしてたから全然気が付かなかった……!

「うわあああ!?ロマニのエッチ!!!!」
「ええ!?僕が悪いのか!?と、とりあえず落ち着いたら外に出てこっちに座標を送ってくれー!」

叫びながらしゃがみ込む私を見たロマニは、じゃあまた後で!と逃げるように通信を切ってしまった。
うう、ガッツリ下着を見られた。いや、ここは下着をつけていてよかったと思うべきなのか……?どちらにせよ、もうどんな顔をしてロマニと顔を合わせればいいのかわからない。これじゃオルタとそういう事になったって言ってるのと同じだ……。

「バレたな」
「うう改めて言わないで……恥ずかしさで死ねる……」
「まあ別に隠すことでもねえだろ。おら、さっさと帰るぞ」
「はい……」

よろよろとしながら前をきっちり閉める。
意味はないのだが、着直した後にもう一度きちんと着られているかを確認した。




洞窟を出ると空は雲ひとつない晴天だった。
丸まった体勢で過ごした体を伸ばして心地よく吹く風に思わず目を細めていると、オルタが隣に並び立つ。無意識にそちらを見上げれば彼もまた私を見下ろしていて、真紅の瞳と視線が絡む。

気持ちを伝えたら、この関係が変わってしまうと思っていた。でも思いを打ち明けて尚、こうして変わらず隣を歩ける事になんとも言えない気持ちが湧き上がってきて、思わず彼の手のひらを握る。

オルタ、と名前を呼ぶ私の頬を彼は指の背でつうと撫で、そのまま目の輪郭を親指で縁取るようになぞった。
彼はよく、こうして私の下瞼をなぞり瞳の形を確かめる。その心地よさに目を閉じると、顎に指が添えられ優しい口づけが降ってくる。

荒々しいキスも好きだけど、この優しいキスもたまらなく好きだ。そういえば昨日のオルタはやけにキスをしてくれた気がするけど、意外にキスが好きだったり……?
そんな事を考えていれば、にゅると肉厚な舌が入ってきた。

「!?」
「またろくでもねえ事を考えてやがったな」
「ち、違う……考えて、ない……」
「分かりやすすぎるだろお前」

小さく笑みをこぼし通信機に送られてきた座標に向け、繋がった手をそのままに歩き出すオルタ。
その愛しい横顔を見つめながら、私も釣られるよう同じ方向へと足を踏み出した。






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