君の旅、僕の路
※[部〜ネタバレ


「君に頼みがある。……できれば一緒に行きたかったけど、この体はどうやら限界みたいだ」
 これが必然なのか偶然なのか、そんな事は些細な話だ。どちらであろうと、僕が抱くものは変わらない。
「でも、ここで終わるわけにはいかない。冒険はまだ続いているからね」
 複製人間として造り出された自分。監獄都市から始まった“ホムンクルスのアドル・クリスティン”の中で尽きようとしている命の長さは、普通の人間からすればあまりにも短い。寧ろ不安定な中、もった方なのかもしれない。
 けれど、造られた命だとしても――諦めたくはなかった。自分の正体を知っても、諦める、というのは選択肢には入らないのだ。

「だから僕を……僕の魂と力を、一緒に連れて行ってくれないか?」

 これからも旅を続けたい。冒険したい場所が、まだたくさんある。自分の足で歩いて、自分の手で道を切り開いて、自分の目で見られなくても――君と一緒に、冒険をさせてくれないか。
 アドル・クリスティン。これは“僕”の、最後の願いだ。造られた存在である僕が抱いた、本物の想いだ。

 ――ああ、行こう!

 言葉は音としては届かなかったけれど、彼はそう言っているように感じた。
 伸ばした手を握ってくれた手はあたたかい。彼は今までも、これからも、この手で希望の光を灯し続けるのだろう。そして、彼なら――彼らなら、証明してくれるはずだ。

 “僕たち”が造られ、過ごしたあの日々に、あの時間には、確かに意味があったと。無意味ではなかったのだと。

 そう信じられたから、何も怖くなんてなかった。
 それに僕は、消えるわけではないのだから。

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