04
彼が話した内容はこうだ。夜遊びがばれて停学になった二年生が、取り調べに対して私の姿を夜遊び先で何度も見かけたと吐いた、と。
「それがほんとうなら、君にも罰を受けてもらうことになるんだが」
「断じてやっていません!」
「心当たりのありそうな顔をしている」
「…………」
心当たりなら大いにある。その二年生が嘘をついたり、見間違えたりしていなければ。兄だ。絶対兄だ。日本に帰ってきているのか。ふざけやがってあの野郎、私に火の粉がかかることくらい心得ておきやがれ。
がっくりと肩を落とす。
「もう一度聞く。夜に寮を抜け出したことは?」
「ないです! 秋吉、……新田くんに確認取ってもらえば分かると思います」
「……もうひとつ質問がある」
「へ?」
とりあえず母に連絡を取ろうと部屋に戻ろうとしたところを、腕を掴まれ阻まれる。
「君には双子の妹がいるな」
そんなことまで情報が流れているのか。いや、夜遊びしている疑惑がかかってしまったら、調べられても当然かもしれない。
「はあ」
「いや、双子の兄がいると言ったほうが正しいか?」
「……え?」
先ほどの血の気の引き方なんて比じゃないくらいに、足元がぐらつくほどの衝撃が走る。鋭い、裂くような視線に呑まれそうになって慌てて踏みとどまる。
「こうは考えられないか? 二年生の奴が見たのは、君の双子の兄だと」
「ど、どういうことですか?」
「つまり君は女じゃないかと俺は言っている」
なんで、どうして。
「そんなわけ……」
「じゃあ証明できるか?」
証明できるか、という言葉は、暗に今ここで脱げと言われているようなものだった。
「おかしいと思っていた。大浴場では新田しか見かけないし、食事の量は異様に少ないし、体育の授業は未だに長袖のジャージだ。そもそも最初からあやしいと目をつけてはいたが」
すう、と寮長の狐の面のような目が細められて、私を値踏みするように視線が頭から足の爪先まで往復する。私のいったい何が、そんなに観察されるまでに寮長をあやしませたのだろう。
「月に一度、必ず体育を休んで保健室で寝ているようだな。生理だろう」
そのものずばりを言い当てられ、反論の言葉も出ない。
絶体絶命の危機に、後ずさろうにも腕をがっちりと掴まれていて叶わない。寮長は、手にしている私の腕をするりと反対の手で撫でた。
「この腕だってそうだ、男にしては妙にやわらかい」
お前変態かよ。
そんな軽口が乾いた笑いとともに頭に浮かぶが、もちろんそれが言葉になるほど余裕がある状況ではなかった。
私が今感じている危険は、ばれてここにいられなくなるとかそういう未来的なものではなくて、目下の身の危険だった。こいつ、絶対ヤバイ。やられる。
腕を撫でた手が伸びてきて、いやらしく首筋を撫でるように触れる。思わずぎゅっと目をつぶると、ぐいと寮長の手が私の身体を押して、後ろ向きに壁に押さえつけられた。胸が壁にぶつかって鈍い痛みを訴える。腕を拘束するように片手でやすやすと押さえつけられ、スウェットの裾から手を入れられて、秋吉の「あやしい」という発言と混乱した思考がぐるぐると頭の中で混ざり合う。ブラもさらしもしていない胸元に手が触れて、その指の冷たさに絶望がひたりと頭を染めるように黒く滲みだしたとき、廊下の向こうから慌てたような足音がした。
「比呂っ」
「っ!」