06

 免疫という言葉について考えていると、そういえば、と薫が私のほうを見て尋ねた。
「お前、双子の妹いるんだよな」
「うん」
「同じ顔なの?」
「二卵性なんだけどね、見事に同じ顔」
「へえ。道理で比呂が女の子っぽく見えるわけだ」
「まあ、うん……」
 適当に返事をしつつも、内心いつばれるのかとひやひやしている。
「で、それがどうしたの」
「いや、なんにも……」
 見えていないものを品定めするような視線に、なんだか嫌な予感しかしない。
「妹はお前なんかにやらないからな」
「別にそんなこと言ってないだろ!」
「ふん」
 慌てて言い繕う薫に梅雨どきの湿気よりも湿った視線を向ける。妹、というのはもちろん私自身のことではあるのだが、やはりいい気持ちはしない。
「ほらほら、喧嘩しないで、ゲームでもしようぜ」
 DVDを取り出しながら、どこからか和泉氏がゲーム機を持ってきた。なんでもあるな。異次元につながっているかのようにいろいろ出てくるベッド下に目を瞠っているうちに、テレビにいろいろと挿し込まれてロード画面が映る。ゲームのできない私はひたすら見学組で、こんなことならパソコン持ってくればよかった、つまらない、と唇を尖らせていた。
 そんな騒動のあった翌々日、生徒会の当選発表がおこなわれた。秋吉は堂々一位で当選し、見事副会長となった。笑いもせず、ガッツポーズももちろんせず、淡々と無表情で壇上で引き継ぎをおこなう秋吉は男前である。美形寄りだが、行動がいつも男気にあふれているので、そう見える。そのギャップがほかの生徒を禁断の恋に走らせるのだろうか。
 そんなことを考えながら、私は例により腕を組んでうとうとしていた。昨日は英語の予習がはかどりすぎて、気がついたら風呂にも入らないまま日付が変わっていたのだ。その後慌ててシャワーを浴びてなんだかんだとやっているうちに、ベッドに入ったのは丑三つ時だった。まったくもってこんちきしょうな馬鹿である。しかも、あたたかなシャワーを浴びたあと熱心にスキンケアをしていたら、湯冷めして風邪気味である。まったくもってこんちきしょうな馬鹿である。
「っくしょん」
「風邪か?」
「昨日冷えたらしくて……はっくしょん!」
「こっちに唾を飛ばすな、馬鹿」
「飛ばしてな……は、はくしょっ」
「……」
 薫にうとまれようが、くしゃみは止めようと思って止まるものではない。時折先生の厳しい視線を感じるが、仕方ないものは仕方ないのだ。
 引き継ぎ式が終わって、私たちは寮へと戻る。その途中で寮長に出くわす。鋭い視線がこちらに向けられる。なんだろう、と思っていると、彼は私に近づいてきて話しかけてきた。
「何か困っていることはないか?」
「え? 特にありませんけど……」
「そうか、ならいいんだが」
 寮長はなにかを射抜くように私の全身を一瞥して、それから寮のほうへと踵を返していく。なんだろうか、一緒にいた薫も不思議そうな顔をしている。私は首を傾げた。すると、背後からちょんと肩を押された。振り向くと秋吉が立っている。
「何してんの、こんなところで」
「いや、寮長が」
「寮長が?」
 秋吉も首を傾げる。
「何か困ってることはないか、って」
「……たぶん、俺と同室だからだな」
「なんで?」
「ああ、なるほど」
 薫が、理解した、というように頷いた。ひとり正解が分からずおろおろしていると、秋吉がこともなげに言う。

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