05
「今更隠してもどうしようもないだろ」
「いや、女として当たり前の行動でしょ?」
「女に興味はない上に、お前の乳はないに等しい。よって隠す必要性はゼロ」
「おいこらテメー人が気にしていることを!」
秋吉もやはり巨乳が好きなのか。いや、男が好きならぺちゃぱいに興奮するはず。
「とか言って、秋吉は男が好きだから、ぺちゃぱいごちそうさまとか思ってるんじゃないの」
「お前みたいな痴女と一緒にするな。女だったら胸はあったほうがいい」
「痴女じゃない」
「痴女だろ」
さりげなく好みを主張した秋吉にがくりと肩を落としつつ、一応否定はしてみる。
普段着に着替えた秋吉は、ため息をついてドアの枠に身を預けた。
「お前、体育の時間とかほかの奴らの身体舐め回すように見つめてるの知ってんだぞ」
「げっ。……やきもちですかあ?」
鼻で笑われる。ちくしょうが、それすら様になっている。私はTシャツをかぶって、ジーンズを腰ではいてずり落ちないようにベルトで締める。兄は、中学生の頃、制服のスラックスをパンツが見えるどころではなく太腿が見えるんじゃないかってくらいにずり下げていて、いっちょまえに不良ぶっていた。まあ実際、日本の国旗を自転車の荷台に挿して、ラッパの音を鳴らしながら仲間とともに近所を爆走していたのだが。それが中学一年生の頃の話だ。二年に上がる前にイギリスに渡ってしまってそれ以来は盆と正月にしか帰ってこなくなったが、相変わらずよく分からないプリントのシャツを着てジーンズを腰ではいたりよく分からない柄のレギンスをはいたりしてでかいサングラスをして、もうワル全開だった。そして今回の失踪事件である。兄は、馬鹿につける薬はない、を地で行っているような人間なのだ。
「あーあ……」
「どうした」
「比呂がちゃんと帰ってきてたら、私こんなところでゲイと同室にならずに済んだのに」
「ずいぶんな言われようだな。俺はゲイじゃない、バイだ」
「え」
ぱちくりとまばたきをすると、秋吉はため息をついた。
「当たり前だろ。男に興味持ったのは、中学入って告白されてからだ」
「じゃあ、女の子を好きだった頃もあったの?」
「まあ、小学生の頃はな」
「私とかどうですか」
さりげなくその気もないのに売り込んでみると、再び鼻で笑われた。
「可能性はないこともないが、好みじゃないし、痴女は恋人にしたくない」
「痴女じゃないっての!」
と言うか、再三言うが好みじゃないならなぜあのとき襲ったのだ。
「じゃあなんで」
「いいから早く着替えろ。薫が外で待ちくたびれてる」
「げっ、マジで」
慌てて、Tシャツの上からチェックのシャツを重ね着して靴を履く。中学生の頃から大して伸びない身長に変わらない足のサイズであるため、けっこうな年季が入っている。そろそろ買い替えようかとは思うが、愛着が強すぎてなんだか新しいものを買うと裏切るような気がして、未だに新品を買えないでいる。
秋吉と連れ立って狭い廊下を過ぎてドアを開けると、薫が退屈そうに壁に背を預けていた。
「ごめん、ゆっくりしすぎた」
「なんか言い争いが聞こえたけど」
「秋吉がノックもなしに俺の着替えに乱入してきたんだよ」
「男なんだから別に何も隠すもんないだろ」
「そうだけどさあ……一応俺にもプライバシーというものがさあ……」
説明が面倒くさいというか、説明できないというか。
お決まりの配置で歩きだす。今日は服を見るつもりだ。毎月母からわずかながらお小遣いが振り込まれているので、金銭的には余裕がある。気を利かせて私のノートパソコンも送ってきてくれたしもう万々歳だ。持つべきは母である。(現金な性格であることは自覚している)
「比呂、機嫌いいな」
「こないだ、ノートパソコンが実家から届いたんだ」
「へえ」
「やっぱあれないとはじまんないよなあ」
「意外とIT系か」
「いや、意味分からんし」