01
最近暑くなってきて、シャツ一枚になった男子たちは私には目の毒だ。まだ真夏ではないので、私はニットのベストを着ているが、季節を先取りした奴らはワイシャツ一枚だ、肌着も着ていない奴もいる。そしてそんな奴らは汗で乳首が透けている。ぽちっとしたい。くそう、ここが共学なら……。
というか、私が積極的にそういう変態キャラを演じたほうがよかったのではないか。なんだか、美形の秋吉とサッカー部エースの薫に挟まれたなんかよく分からないけれど小さい変な奴、という偏見が定着してしまっている気がする。もっと積極的に皆と絡んでエロキャラを確立すればよかった。
「まあた妄想か、姫よ」
「姫って呼ぶなっ」
「乙女ちゃんのくせに何口答えしてんだよ」
乙女ですけれどもね、乙女であることに間違いはないのですがね。そんなことは口が裂けても言えないわけですよ。となりで、秋吉が笑いをこらえている。
「秋吉、笑うなっ」
その細い背中に思い切り抱きついて文句を言うと、薫が首を傾げて呟いた。
「最近、お前らスキンシップ多いよな。……まさか」
「まさか」
「まさかあ」
一瞬、薫がほっとしたような顔をする。
「新田と言えば可愛い子としか付き合わないって有名だからな。比呂と付き合うわけがないよな」
「ひどい!」
あまりにあまりな薫の発言に、ツボに入ったらしい秋吉がけらけら笑う。
「笑うなよ!」
怒ったふりをして、よっと声を出して秋吉におぶさるように体勢を変えた。秋吉は黙って私の膝の裏に手を回してくれる。
「仲いいなあ」
「同室だもん、仲良くないとやっていけないよ」
「まあ、それもそうか」
「学食行くぞ」
「腹減ったしな……比呂、お前そのまま行くのか」
「だって楽だもん」
口笛を吹きながら、秋吉におんぶしてもらったまま学食へ向かう。羨望と嫉妬の視線が突き刺さる。その中に、私は小さな可愛い男の子を見つけた。薄茶色の儚げなその目を見て、乳首の色がどうのこうのの前に、分かってしまった。あの子は憧れや羨望ではなくて、きっと真剣に秋吉のことが好きだ。切ない濡れた眼差しがすべてを雄弁に物語る。そしてもしかしたら、秋吉となにか関係があったのかもしれない。彼は、私の視線に気づくと、きゅっと目に力を入れて私を睨んで小走りになって消えた。
「秋吉、下ろして」
「なんで」
「なんか、飽きた」
「勝手に乗ってきといて……」
ぶつぶつぼやく秋吉に下ろしてもらい、私は両氏の真ん中に割り込んだ。いつもの並び順だ。私は、きっと秋吉と同室でなければ、こんなふうに彼らと仲良くなることはできなかっただろうな、としみじみ考える。もし、ほかの誰かと同室だったら、私はこんなふうに学園に溶け込めていたのだろうか、はなはだ疑問である。
「はやく学食行こうぜ、腹減った!」
私は、両氏の手を取ってもう数十メートル向こうに見える学食のドア目指して走り出した。すぐにふたりに追いつかれ、逆に追い抜かれ引きずられるかたちになった。
「わ、わ、な、なにをする」
「お前から仕掛けてきたんだろ」
「コンパスの違いに気づけ」
言いたい放題のふたりに引きずられながら、席につく。
いつものように威勢のいいおばちゃんに定食をごはん少な目で頼み、いつものようにふたりに挟まれながらメインの肉料理を大口開けて食らう。私は、小食だけれど食べっぷりだけは豪快なのだ。
ふと、視線を感じてふいと横を見る。先ほどの男の子が悔しそうな切なそうな瞳を私に向けていた。なんか、いやな感じだな、そう思う。
昔、友達の好きな人が私を好きだったいわゆる三角関係に巻き込まれたことがある。それは小学生のしょうもない好意に毛が生えた程度の恋だったのだが、それでも友情にヒビが入るにはじゅうぶんな事件だった。友達は、私たち仲良しグループの中でもリーダー格の女の子で、そんな子にライバル視されたとなったら、私の末路は決まっている。
その子から男の子を盗ったと見なされた私は悪者になり、その子のみならずグループの女の子全員から無視されるようになり、さみしい思いをしたことを覚えている。