03
定食のメインである生姜焼きを口を大きく開けて一口でかぶりつくと、薫が苦笑する。
「可愛いくせにワイルドだよな」
「…………」
口に生姜焼きが入っているので何も反論できない。男になる練習などしなくとも、私はどうやらじゅうぶん男らしかったらしい。おかげでこの一ヶ月誰にも(よもや女が混ざっているとは誰も思っていないのもあるだろうが)女だとはばれていない。もちろん、同室の秋吉にも。風呂のときなんかは特別注意している。入浴時間を短くしたり、シャワーを浴びるのは彼が大浴場に行く時間に合わせたり、なにかと大変なのだ。彼の前では絶対裸にはなれないし。
なんで大浴場に入らないの、という秋吉の素朴な疑問には、温泉などで不特定多数と湯船を共有するのが苦手なのだとそれらしいことを言っておいた。
「可愛さと野蛮さは比例しないんだよ」
生姜焼きを飲み込んで抵抗すると、まあそうだな、と言って薫が白米にがっつく。私にああ言いはしたものの、彼自身も実にワイルドだ。どちらかというと美形寄りの秋吉とは違い、薫は眉も太く凛々しく、俺男です、と全身で主張しているような、ワイルドな外見だ。筋骨隆々、力強い目つき、真一文字に引き絞られた唇。私としては、身体はとても目の保養だし決して不細工でもないのだが、たぶんこの暑苦しい感じは女の子にはモテない、と勝手に思っている。
「ごちそうさま」
静かに食べていた秋吉が静かに箸を置く。それを見て、私は慌てて味噌汁を掻き込んだ。それを見た彼は、苦笑して私の頭をはたいた。
「そんな慌てて食わなくてもいいだろ」
「いや、秋吉食い終わったし、急いでるだけだよ」
秋吉は、スキンシップが多い。頭をはたいたその手をどけることなくそのまま置いていて、思わず赤面してしまう。きっと秋吉はほかの男の子にもこういう態度で、なので誤解されて告白、という流れになってしまうんだろう。
「別に、俺に合わせる必要ねえじゃん」
「そうだぞ、俺だってまだ食ってる」
唇を尖らせた薫の皿に、食べきれないであろう生姜焼きを運ぶ。
「お、いいの?」
「うん。そういえば、薫はどこの部活入るの?」
「俺はまあ、中学の頃からやってたし、サッカー部だな」
「へえ、サッカー少年かあ」
いかにもである。付け合わせのサラダを口に運びつつ、今度は秋吉に聞く。
「秋吉は?」
「俺は、部活は入らないことにしようと思ってる」
「なんで?」
「生徒会に入りたいから」
「それって、部活と両立できないの?」
「生徒会は忙しい」
「ふうん」
生徒会か、中学校ではあってないようなものだったな。というのは私が生徒会じゃなかったからその大変さを知らなかっただけかもしれないが、少なくとも生徒会長も副会長も皆部活に入っていた。わざわざ入りたいと思うということは、ここでは重要な役割を果たすのだろうか。なんて思っていると、横槍が入った。
「生徒会? お前馬鹿だろ」
「は?」
薫が秋吉を馬鹿呼ばわりする。ぴくりと秋吉が眉を上げ、睨みつける。一気に険悪な雰囲気になってしまったふたりに挟まれた私は、当事者じゃないのにめちゃくちゃ緊張していた。呼吸さえしてはいけないようなぴりぴりした空気に、食事をしていた手も止まる。
「自分から見世物になりにいくなんて、ふつうじゃねえよ」
「別にそういうつもりで入ろうと思ってるわけじゃない」
「……?」
見世物、とはどういう意味だろうか。ふたりの顔を交互に見ていると、それに気づいたのか、秋吉が細くてすぐに絡まりそうな髪の毛を掻き上げて言った。
「中学の生徒会もそうなんだけど、ここの生徒会は人気投票で決まるようなものだから、ファンの組織票があったりして、まあ、つまり、生徒会ってある意味ちょっとしたアイドル集団みたいなものなんだよ」
「秋吉はアイドルになりたいの?」
「ぶっ」
薫がとなりで吹き出した。秋吉は、眉をひそめて首を横に振る。