07
つつ、と背中から胸へと指が伸びて、揉み込まれる。強弱をつけて、時折核心に触れるその動きに、もどかしくなって腰が揺らめいた。
「美麗」
「……?」
「……美麗は、俺だけ感じてればいいよ」
「あっ」
耳元で囁かれる甘い甘い、毒みたいな言葉が、私を柔く突き刺して身動きできなくする。
そのまま、唇は顎のラインを伝って首筋にたどりつき、そこを強く吸った。吸血じゃない、マーキングのためのその行為に、体が燃えるように熱くなる。涙が、膜を張った。
体中、くまなく撫でられて、とろとろにほどけてしまう。いつの間にか、いつもみたいに私は裸になっていて、仁さんがシャツを脱ぎ捨てていた。
思わず、その胸に手を当てると、心臓の音がした。ひどく安心する。
「仁さんも、ドキドキしてる」
「……この年になってガキみたいだって、笑うだろ」
「笑わないよ」
「美麗を前にすると、心臓がいくつあっても足りない」
ちゅっと唇にキスを落とされて、足の付け根のその奥に指が伸びる。
「……可愛い」
何度も何度も、そう囁かされて、頭がおかしくなりそうだ。
自分を特別可愛いだなんて思ったことがないのに、仁さんが言うならそれはまるでほんとうみたいで、言葉の重みが全然違う。
「美麗」
いつから、自分の名前を特別に感じるようになっただろう。ああ、なんだか今なら答えが出る気がする。たぶん、仁さんに抱かれるようになってから。こうして、熱っぽい声で名前を呼ばれるようになってから。
私はそうやって、自分の名前を、好きになった気がする。
「あぁあ……ッ」
「……ッ美麗」
仁さんの詰まった吐息が耳元で吐き出され、我慢できずに涙がこぼれ落ちる。
「痛い?」
「ちが、ちがう、幸せで……」
「……そう」
仁さんの頬に手を伸ばす。触れさせてくれる。跳ね除けられない。たったそれだけのことに、心にくすぶる炎が燃え上がる。
突き上げられて、揺さぶられて。強すぎる快感と大きすぎる幸福感に意識が飛ぶ寸前、仁さんはたしかにこう囁いてくれた。
「俺も、幸せだよ」
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