09
「学校から、ほんの少しだけ離れた公園だよね」
「そう。それで、俺が見つけたとき美麗は、滑り台の下でびーびー泣いてた」
古びた記憶を懐かしむように掘り下げる仁さんの目元がおかしそうに細められていた。
「俺を見た途端、美麗が飛びついてきて、余計泣いた」
「……仁さんを見て、安心しちゃったの」
「うん。……俺も死ぬほど安心した。何か事件や事故に巻き込まれてたらどうしようって、ほんとうに気が気じゃなかったんだ」
「……ごめんね」
「いや。たぶん、あのときなんだろうな」
「え?」
仁さんの、昔話を語る口元が引き締まる。
「美麗を、俺が守っていくんだって決めたのは」
「…………仁さん、あのね」
「ん?」
「ろ、ロリコンって知ってる?」
「…………」
仁さんが苦い顔をして、私をじっとりと見つめた。でもすぐに笑って、それからゆっくりと顔を近づけてくる。
ついばむような、なだめるような優しいキスだった。離れていった唇に薄く目を開けると、仁さんはとろけるような瞳でこちらを見ていた。
「美麗、口開けて」
呼吸が擦れ合う位置でそう囁かれて、勝手に唇が綻ぶ。そっと侵入してきた舌が、優しく口内を荒らしていく。
濡れた音が響いて、舌を舌で遊ばれて、歯列をなぞられて頬の内側を擦られて、下肢の付け根がじわりと熱くなった。
そのまま、仁さんが覆いかぶさってきて、私はベッドに倒された。期待に、胸が疼く。
「……やめよう」
「……え?」
唇を離した仁さんが、ぼそりと呟いた。
「美麗、具合悪いだろ」
「……」
たしかに、頭は少しだけぼんやりしている。でも、平気なのに。
「へ、平気だよ」
「血を吸い過ぎたんだ。美麗が気絶したとき、俺はほんとうに後悔した」
「……」
「まだ、血、足りてないだろ。顔色悪いし、そういえば水も飲んでない……」
私から離れてサイドテーブルに手を伸ばしかけた仁さんの足に、自分の足を絡める。腕も背中に回して身体を寄せて、自分から唇を重ねた。
「美麗」
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