08
「ずっと、ずっと好きだったの……」
「……」
「仁さんしか、いらない」
「……」
「……大好きなの……」
「…………うん」
膝立ちになって、仁さんの腕がゆっくりと私の背中に回された。その広くて細い背中にすがりつくみたいに手を伸ばして抱きついた。
あったかい。
そう思ったら、もっと涙があふれてきた。仁さんがここにいる。私を抱きしめて、欲しいと言ってくれる。ぎゅっと腕に力を込める。仁さんが逃げないように、消えないように。
「……ほんとうは、ずっとこうしたかった」
仁さんがそっと呟く。それから、抱擁を解いて私の頭を優しく撫でた。
「餌としてじゃなくて、こうして、優しく触ってあげたかったんだ」
「……触って、もっと」
てのひらに頭を押し付けるように擦り寄る。仁さんは、穏やかに笑ってベッドの上に這い上がってきて、強く私を抱きしめた。
「美麗」
低く穏やかな声で、名前を呼ばれる。顔を上げると、この世に存在しないくらいの優しい目をした仁さんがそこにいて、また涙がこぼれる。
「美麗は、けっこう泣き虫だよな」
「だ、って」
仁さんの舌が涙を舐め取る。頬から目尻にかけて舐め上げられて、白目に少し触れた。
「……昔」
ふと、思い出したように言葉が落ちる。
「美麗が、迷子になったことがあっただろ」
「……」
「小学生くらいのとき。友達に誘われたか何かで、いつもと違う、知らない公園に遊びに行ってそのまま帰ってこられなくなった。夕飯どきになっても帰ってこなかったから、俺が探しに行ったんだ」
「……覚えてる」
忘れるはずがない。だって、あの思い出は、仁さんを好きになるきっかけのようなもので。
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