07
好奇心や、仁さんの言う人を惹きつける能力、が原因なんかじゃなかった、とは言えなかった。仁さんの目があまりにも真剣で、懺悔するように顔は青ざめていたから。飲み込まれるように、口をつぐむ。
「嘘なんだよ、抱けば血が美味くなるなんて」
「え……」
「俺が何かしてもしなくても、血の味なんか変わらない」
意味が分からなかった。なら、どうして、あんなことを。
「俺が、美麗を抱きたかっただけだ」
「……」
「誰かのものになる前に、俺のものにしたかっただけだ」
吸い込まれるような引力のある茶色の瞳に、私は情けなくたじろいだ。なんだか、それじゃあまるで。
「なんか、それじゃ、仁さんが私のこと、……好きみたいだよ」
「好きとか嫌いとか、愛とか、恋とか」
ふふと、私の馬鹿な発言を笑うように、仁さんが息を吐き出す。
「そんなものよりも、美麗が欲しかった」
それは何よりも重たい、鉛のような告白だった。
私の長い髪の毛の先が、仁さんの頬をくすぐる。それをまた指で絡め取って、仁さんは慈しむように遊ぶ。
私は、こわごわと口を開く。
「ねえ、仁さん」
「……ん?」
「私、ね。ずっと仁さんのこと、……好きだったの」
「……」
仁さんが目を見開いた。
「こどもの頃から、ずっと好きだったの。だから、あのときも好奇心なんかじゃなかったの」
「嘘だ」
「なんで嘘だって思うの?」
「美麗は、好きな男がいるだろ」
疑われたことが悲しいとは、不思議と思わなかった。
「うん……仁さんが好きだよ」
「ヴァンパイアは人を魅了するようにできてる」
「……そう思いたいなら、それでもいい。私は仁さんが好き」
こらえ切れずに、私の目から零れた涙がぽつりと仁さんの頬に落ちた。好きな人に、こうして好きと言えるのが、こんなに苦しくて切なくて、いとおしいことだったなんて、知らなかった。
泣かないように必死で目に力を入れるけれど、あとからあとから涙はわいてきた。
我慢しなくていい、言葉を押し殺さなくていい、仁さんに好きだって言ってもいい。
ふと彼の手が伸びてきて、その長い指が目尻の涙をすくい取った。
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