03
疑問はいくらでもわいてきたけれど、今はたぶんその解決を求めている場合ではないことも頭の隅で分かっていた。
仁さんは今、飢餓状態なんだ。
「仁さん」
シャツのボタンをふたつ外して、首筋をあらわにする。
「いいよ、いつもみたいに、して」
「やめ、ろ」
仁さんの目が私の首筋に釘付けになる。息が、浅く荒くなる。何かを我慢するように、フーッと食い縛った歯の隙間から呼吸が漏れている。
私は更に仁さんに近づいて、首筋を目の前にさらけ出した。見開かれた赤い瞳が、本能と理性のはざまで戦っているのが手に取るように分かってしまって、仁さんってこんなに分かりやすい人だったっけ、と場違いなことを思った。
首筋を、仁さんの唇に当てる。彼が、唇を真一文字に引き締めて、こどもがいやいやをするように情けなく首を振った。
「お願い、吸って」
「やめろ、み、れい」
「いいから、吸うの」
「…………」
苦悶の表情が浮かぶ。目の前の「餌」にかぶりつきたい衝動がちらちらと瞳に映る。けれどなぜか仁さんはそれを、残ったほんのわずかな理性で押しとどめている。
理由は何も分からないけれど。今私にできるのは、血を提供することだけだ。
私は、そっと仁さんの茶色くて柔らかい髪の毛に手を入れて、掻き混ぜた。それこそ、こどものご機嫌をなだめるかのように。
「仁さん」
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