03

 なんだろう、と思いつつ了承する。それは、先輩の視線が揺るぎなく真剣だったからだ。つい、呑まれてしまった。
 そのまま、先輩が大神くんにからかわれているうちに昼休みが終わる予鈴が鳴って、先輩が慌てて走り去っていく。大神くんがその背中を見つめながら、ぽつんと呟いた。

「上谷はさ」
「ん?」
「けっこう残酷」
「……え?」
「いや、別に」

 そのまま大神くんは、友達に呼ばれてそっちへ行ってしまったので、言葉の真意を聞くことはできなかった。私が、残酷……?
 その言葉が引っかかったまま、放課後を迎える。どこかで待ち合わせとかをしているわけじゃなかったので、私は教室で篠宮先輩を待っていた。一人二人と皆が帰っていく中で、野乃花が私の前の席に座り込んだ。

「一緒に待っててあげる」
「え」
「大丈夫、篠宮先輩が来たら、帰るから」
「面白がってない?」
「別に! 全然!」

 明らかに面白がっている。目を眇めて、私はため息をついて首を横に振る。
 そのまま野乃花が床に鞄を落とし、私の首を指差した。

「大神くんじゃないけどさ」
「え?」
「断るなら、さっさと断んなよ」
「……」
「じゃないと篠宮先輩、次に進めないじゃん」

 上谷はけっこう残酷。その言葉が、今更頭の中で揺れた。あれは、そういう意味だったの?
 野乃花が、戸惑う私を見て続ける。

「好きな人がいるんだったら、先輩に期待持たせるようなことしないほうが、いいと思うよ」
「……」
「美麗さ、変に優しいから」
「別に優しくは」
「優しいとは言ってない。変に優しいって言ったの」

 ずばっとそう言われ、思わずうつむいた。でも、と野乃花が呟いた。

「でも、美麗は、実は篠宮先輩とくっつけばかなり幸せになれると思うよ」
「何それ」
「だって今、全然幸せそうじゃない」

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