02
美麗、と仁さんが私を呼ぶ声が、頭の中でこだまする。あの色っぽい声を思い出しただけで、首筋の傷がずきずきと疼く。
はあ、とため息をつくと、頭に手が置かれた。
「どしたの、元気ないじゃん」
大神くんが、不思議そうな顔で私を見て、それから何か合点したようににたっといたずらっ子のように笑った。
「篠宮先輩のこと?」
「……」
全然違います、とは言えなかった。そうだ、それも考えなくちゃいけない。
篠宮先輩は、相変わらずの調子で私に接してくる。でも、ふとした言葉や行動が、甘くなった気がする。
さりげない優しさや、そういう甘さが、私を揺らす。でも、どこかで、仁さんだったら、と思っている自分に嫌気がさす。
先輩は仁さんじゃないし、仁さんは先輩じゃない。そんなこと、分かっているのに。それでもどうしても、重ねてだぶらせて、それで失望している。最低だ。
「てか、なんで回答保留にしてんの? 篠宮先輩、いいじゃん」
「え……」
「優しいし頼りがいあるし、イケメンだしサッカーうまいし」
「……」
サッカーがうまいっていうのは、私が彼氏を選ぶ上でまったく関係のない項目だな、と思う。
大神くんはそのまま愉快な口調でおどけるように続けた。
「ちょっと馬鹿なのが玉に瑕だけども……」
「大神?」
「……あはは」
いつの間にかうちの教室に来ていた篠宮先輩が、大神くんの頭をがしっと掴んで揺らす。わああ、と大げさに悲鳴を上げる大神くんも、先輩も、半分笑っている。信頼関係、のようなものが透けて見えて、いいな、と思う。
それを微笑ましい気持ちで見ていると、篠宮先輩の視線が、私のほうに流れて、私は思わず背筋を伸ばした。
「上谷、今日放課後、時間ある?」
「え……」
「ちょっと話したいこと、あるんだ」
「……はい」
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